貴方はわんこ。貴女はにゃんこ。

※翻訳などなどを駆使して作成した英文、そして和訳ですが、正解かどうかはちょっと分かりません。

落ち着くところに落ち着いた、のでしょうか?

「となると、昼間の”あれ”も嫉妬からの行動であったと考えても?」
「”あれ”、とは?」

思い当たる節はありました。けれど私は咄嗟に、気付いていない振りをしていました。

「……待ち合わせの場所で、僕が女性に絡まれていた時です。目が合ったのに、朝雪さんは何処かへ行かれようとしましたよね?……あの時の朝雪さんは……泣き出しそうな表情をされていましたよ?」

だから慌てて追いかけたのだと、貴方は苦笑混じりに仰いました。
――私は、そんな表情をしていたのですか?表情が出にくい顔だと思っていたのですけれど、そうでもないのでしょうか。
呆けているとぐいっと引き寄せられて、武藤さんの腕の中にすっぽりと収まっていました。

「嫌われてしまったのかと思って……とても焦りました。僕と何処かへ行くと、朝雪さんに嫌な思いをさせてしまうことが多々あるので……」
「……」

確かに寂しい思いをしたりしますけれど、そんなことで貴方を嫌いになったりはしません。慣れてしまいましたし、貴方が悪い訳ではないので。このことを伝えた方が良いのかと迷っていると、私を抱きしめる腕の力が僅かに強くなりました。

「……嫉妬してもらえて、良かった」
「え?」
「朝雪さんは僕のことを保護者であるとか……よくて年の離れた兄のような存在だと思っているだろうと……。朝雪さんはなかなか鈍くていらっしゃいますし、僕も僕で言うつもりはなくて……僕の気持ちには一生気付いて頂けないだろうし、それでも良いと思っていました」

傍にいられるのならば甘んじて受け入れようと決めていたはずなのに、と、彼は言います。

「けれど旦那様が亡くなって、貴女と僕の関係が変わってしまって……。離れていこうとした貴女を引き止めるのに必死で、引き止めることに成功して、それで満足しようとしていたのに……関係を壊してしまうかもしれないと分かっていた筈なのに、僕は欲を出しました」
「……欲?」

腕の力が緩んで、身体が少し離れて――こつんと額と額が合わさって。

「僕は貴女が好きです……一人の女性として愛しています。朝雪さんは、僕のことをどう思っていらっしゃいますか……?」

伏目がちに、遠慮がちに告げられた言葉に驚いてしまって、一瞬、息をするのを忘れてしまいました。
――今、貴方は何て言ったの?私のことを好きって、言ってくださったの?こんなに可愛げのない、自分に自信のない私を?

「わた、しは……っ」

どう伝えたら良いのでしょう?返事をしなくてはと思うのに、言葉が上手く出てこなくて。言いたいことや聞きたいことが頭の中でぐるぐると回って、纏まってくれないのです。

「思い浮かんだことや言いたいことは全部仰ってください。纏まっていなくても、結構ですから……」

自分にとって都合の良いことも悪いことも全部聞くと、貴方は仰いました。私が混乱してしまっているのが伝わっているのだと、直ぐに分かりました。
どうして貴方は、私なんかの話を聞こうとしてくださるのですか?

「あの、時、嫌だって思ったんです。貴方の腕に絡み付いている女の人が、嫌、でした。貴方に触らないでって、声を聞こうとしないでって、目に映ろうとしないでって……。貴方を自分の所有物であるかのように思ってしまった自分が、凄く嫌でした……」
「……うん」

貴方は大きな手で頬に触れて、私を落ち着かせようと優しく撫で擦ってくださいます。

「コメちゃんに『僕もだよ』って仰った時、ヤキモチをやきました。他の女の人には仰らないのに、どうしてコメちゃんには仰るのって……。だから、彼女のことは特別だと思っていらっしゃるのだなって、思いました……」
「実際に僕が特別扱いしているのは、朝雪さんだけなんですけどね。……すみませんでした。彼女とはそんな軽口を叩いてしまう気の置けない仲なので……つい」

いいえ、謝らないでください。誤解した私が悪いんです……。
――そういえば、すっかり忘れておりましたが。燎くんは貴方のことを”ダーリン”って呼ばれましたよね。どういうことなのでしょうか?

「そ、それに……急におでこにキ、キ、キ、キ、キス、して、くるようになるし……っ」

キス、と言葉にするのがとても恥ずかしくて、どもってしまいました。

「素直に本音を言えと朝雪さんが仰ってくださいましたので、自分の気持ちに素直になろうかと思いまして。あわよくば気付いて頂けるかと、多少は異性として意識して頂けるかと期待しました……」

では私は、貴方の目論見にまんまと嵌ってしまったということなのでしょうか。ですが不思議と腹は立ちませんし、嫌だなんて思いません。

「わた、しは、可愛くなんてないのに、貴方は可愛いってお世辞を言ってきますし……っ」
「朝雪さんが可愛いのは事実ですが。僕は貴方ほど可愛い女の子を見たことがありません」

は、恥ずかしい台詞をさらっと……!

「えー、あー、ああっ!これまでに散々憎まれ口をきいてしまいましたから、貴方は心の奥底では私のことを嫌っているのではないかと……でも”約束”を守ると言ってしまった手前、口には出さないでいてくださっているのかなと……」

「矢張りこの前に僕が言ったことを信じてくださっていなかったようですね……。良いですか、朝雪さん。偶にぐさっときますが、それくらいで貴女を嫌いになったりしません。盲目的に貴女を愛してますから」
「……うぅっ」

恥ずかしくなって何も言えなくなると、貴方は満足気に微笑んで私の頬にキスを落として。それが混乱を促進させて、制御のきかなくなった口が勝手に動き出しました。

「コ、コメちゃんや燎くんにはくだけた口調ですのに、私には敬語じゃないですか、貴方はっ。私のこの話し方はもうどうしようもないのですけれども……っ」

幼い頃から、この口調だったのです。それは貴方も御存知でしょう?私も、あんな風に話して貰いたいです。貴方の色んな表情が見たいです。そりゃあ、貴方の笑顔は好きですけれど。

「……長年の習慣が抜けきらなくて……態とではないですよ?」
「コメちゃんは”コメちゃん”と呼んで、燎くんは”燎”と呼び捨てにされますのに、私は”朝雪さん”ではないですか。私は貴方より年下ですのにっ」

一緒に暮らすようになった時や、この前も呼び捨てにして欲しいとお願い致しましたよね。努力するって仰っていましたけれど、今のところ”朝雪さん”ですよね――あれから未だ一週間しか経過しておりませんが。せっかちで御免なさい。
ま、まあ、私も少し意地になって貴方を”武藤さん”と呼んでしまっていますけれど。
――自分のことを棚にあげました、御免なさい。

「それは……その……。朝雪さんも僕のことを”武藤さん”って呼ばれるではないですか。この前もその呼び方は嫌だと申しましたら、却下されて……。なのに燎がお願いしたら、”燎くん”って素直に呼んでいらっしゃるではないですか……どういうことですか?」

唇は優美に弧を描いていますが、目が全く笑っていません。怖いです。えぇと若しかして、燎くんにヤキモチをやいていらっしゃるとか?
……気のせいですよね。ですよね。

「……どのようにお願いをしたら、僕の名前を呼んでくださいますか?」

うう~、耳元で甘い声で囁かないでください~っ。貴方の声が好きですから、必要以上にドキドキしてしまうではないですか……!心臓に悪いですっ!顔も近いですしっ!

「さ、朝雪って呼び捨てにしてくださったら、もう”武藤さん”って呼びませんっ。以前のように、貴方の名前を呼びます……っ」
「……っ!本当、ですか?」
「うあっ、はいぃ……っ」

ど、どうして、そんなことで嬉しそうな顔をなさるのですか?だけど貴方は直ぐに難しい顔をされて、考え込んで、次第に顔が赤くなっていって――。
えぇと、私の名前を呼び捨てにすることがそんなに難しいことなのでしょうか?

「……き」
「?」

貴方は何か仰ったようですけれど、声が小さくて聞きとれませんでした。首を傾げていると貴方は私の目を確りと捉えて――

「朝雪……」

私の名前を呼んでくださいました。その瞬間、とても嬉しくて自然と口元が緩んでしまったのが分かりました。

「……クィン」

貴方の名前を呼ぶと、貴方は目を瞠って、それから泣き出しそうな顔をして――私を力いっぱい抱きしめてくださいました。

「朝雪、朝雪……好きです、愛してます……昔からずっと、ずっと……っ!」

私の肩口に顔を埋めてしまっている貴方に頬を摺り寄せて、広い背中に手を回すと――腕の力がもっと強くなって。苦しいのですけれど、でも、幸せで――。

「クィンのこと、好きです。でも、恋愛感情があるのかどうかがいまいちよく分からなくて……」

私の思いが、貴方が望んでいるような思いであるのかどうかが自信がなくて。つい、口に出してしまいました。すると貴方は、ぴくっと身を強張らせて――。

「……この流れで、そうきますか……」

声の調子が、普段よりも低くなったような気がしました。
ゆっくりと身体が離れていったので、恐る恐る顔を覗き込んでみましたらば、武藤さん――クィンは背後にどす黒いオーラが見えてしまう微笑みを浮かべていました。
――そこで漸く、私は己の失言に気がつきました。やってしまいました……っ!
に、逃げたい……っ!!きっと逃がして頂けないのでしょうけれども……っ!!!

「……僕のことを異性として見ているのかが分からないのですよね?とりあえずは、僕のことは好きなんですよね?」

恐怖のあまり声が出ず、私は力の限りぶんぶんと首を縦に振っていました。
そうです、貴方のことは好きです。男性として好きなのかが、いまいち自信がないだけなんです……!

「でしたら、良いです」

貴方は私の頬を両手で包むと、妙に艶かしい笑みを浮かべました。恐怖から解放されたのは良いのですが、今度は心臓が破裂してしまいそうです……!

「これからで良いですから……僕のことを異性として見てくださいね?好きになってください、愛してください……。くれぐれも、他の男を好きになったりしないでくださいね?」

貴方の心を奪ったのが自分以外の男だったら、そいつを再起不能にして東京湾に沈めるか、富士の樹海に捨ててきます――なんて恐ろしいことを笑顔で仰って。
熱の篭った青灰色の目に見つめられていると、段々と目が離せなくなっていって。徐々に端正な顔が近づいてきて――唇に、彼のそれが軽く触れました。何度も啄ばむように口付けられて、段々と頭の中がぼうっとしてきて、力が抜けてきます。

「...Now I'm done for(参ったなぁ). I can't take it(我慢出来ないや)...」
「……ふぇ?ふぁ……っ」

唇が離れて、貴方は英語で何か呟きます。貴方が何て仰ったのかが分からないので尋ねようとしましたら、間の抜けた声が出て……今度は深く深く口付けられていました。角度を変えては何度も唇を貪られているうちに、貴方に食べられているような錯覚に陥ります。
口付けが激しくて、い、息が出来ません……っ。私は酸欠状態ですのに、貴方は、元気ですね。一体いつ息つぎをしているのですか……!?

「...You know(あのね), I won't give up until you love me(君が僕を愛してくれるまで僕は諦めないからね). You'd better be prepared for it, my dear(覚悟してね、僕の可愛い人)...」
「クィ、えぇご、分か、にゃ……んぅ……ふぅ……っ」

一旦解放されたかと思ったら、直ぐに熱い舌が口の中に侵入してきて、頬の裏側や歯列、上顎などを(まさぐ)られて。すっかり貴方の良いようにされてしまって――でも嫌ではなくて、ふわふわして気持ちが良くて。
漸く口付けから解放された頃には、私は意識が朦朧としてぐったりとしていて……気がつけばそのまま眠ってしまいました。

感想――初めてのキスは、甘いような苦いようなお酒の味がしました。

ぷしゅ~~~っ。