夢見るゴリラ

餌ではありません、ゴリラによく似た人間です

 冷静さを多少取り戻した稲穂は、ふと、違和感があることに気が付いた。
 上から降ってきた褐色の肌をした美女はマウントポジションをとり、稲穂の腹の上にどっかりと腰を下ろしている。更にはしなやかで長い腕にしてはやたらと強い力で、稲穂の両腕を押さえ込んでいるのだが、不思議なことに彼女は稲穂の分厚い胸板にも両手を置いているのだ。そのことに疑問を抱いた稲穂は太い首を動かして、よくよく観察してみた。自分に跨っている美女には肩の関節が四つ存在し、その先には四本の腕があるではないか。

「ははあ、腕が四本生えてんのか。便利そうだなあ…………………………うん?腕が四本?」

 極稀にあるという例外――所謂”生命の神秘”というものを除けば、人間についている腕は二本であるというのが常識だ。四本の腕を持つ人間を見たことがない稲穂は即座に、これは夢であると思い込むことにした。胸の上に置かれている手はきっと精巧に作られた飾りに決まっているということにしようと試みたのだが――モンスターガール(仮)はそれを許してはくれなかった。
 彼女は置いていた手を動かして、ひくひくと顔の筋肉を引き攣らせている稲穂の頭をがっしりと掴むと強引に目を合わせてきた。日本人特有の薄い顔――ゴリラ顔の稲穂は除外する――とは異なる、彫りの深い顔をしたモンスターガール(仮)は思わず見惚れるほどに美しく、上半身が裸なので稲穂はむふふといやらしい笑みを浮かべてしまうのだが、そんな彼女には四本の腕がある。その事実は稲穂をあっという間に現実へと引き戻してくれる。

『**********』
「ひいっ!!!」

 突然、にたあっという擬音が聞こえてきそうなほどに不気味な笑みを浮かべて、モンスターガール(仮)は舌舐めずりをする。自分はモンスターガール(仮)に餌として認識されているのだと本能で悟った稲穂が短い悲鳴を上げたが、その続きは彼女からの口付けにより、空しく消えていった。
 お金を支払うと相手をしてくれるお姉さん以外とは殆どキスをしたことがない稲穂を、モンスターガール(仮)は翻弄してくる。彼女の濃厚なキスを受けている稲穂の口内に、南国の果実のような甘い味が広がる。その刺激は稲穂の記憶を呼び覚まし、ファーストキスはレモンの味ではなく、牧草と乳牛の唾液が混じり合った、青臭く且つ生臭い味だったことを思い起こさせてくれた。忘れていた記憶が蘇ったことで、稲穂が憂鬱な気分に陥ったのは言うまでもない。

『……**********』

 限りなくゴリラに近い人間である稲穂の唇の味を堪能したらしいモンスターガール(仮)は徐に唇を離すと、うっとりとした表情で何事かを呟いた。どうやら技巧派だったらしい彼女のキスに翻弄され、腰砕けとなっている稲穂は母国語である日本語しか扱えないので、異国の言葉を扱う彼女が何を言っているのかは理解出来ず、息を切らせながら、彼女の動向を探ることしか出来ない。

(く……っ、俺はこのままこの姉ちゃんに食われちまうのか……っ!?先祖から代々受け継いできたこのゴリラ顔の遺伝子を後世に残すこともなく……そうだべ……俺は未だ繁殖出来てねえべ!!!)

 自らの遺伝子を受け継いでいる子孫を残す、という、稲穂にとっては非常に重要な夢を叶えていないこの身をモンスターガール(仮)の胃袋に収められる訳にはいかない。稲穂は出来うる限りの抵抗を試みて、体を捻ったり、自慢の腕力を駆使したりとしてみるが――モンスターガール(仮)の人外の怪力の前にはなす術もない。

『**********』
「ちょっ、止めてっ、其処はだめぇっ!」

 あっさりと抵抗することを諦めた稲穂が情けない顔でモンスターガール(仮)越しに晴れ渡った空を眺めていると、彼女は彼を押さえつけるのに使用していない手で彼の体を弄りだした。初めは擽ったいだけに感じられたその動きだが、次第にぐっすりと眠っていた稲穂の性感を刺激してくるようになる。快楽へと誘い、惑わしてくるその手は不甲斐なくも反応を見せてしまっている稲穂のバナナ――もとい、股間へと辿り着き、灰色のつなぎ服の上から優しく撫で上げてくれる。

「はふんっ」

 捕食されることへの恐怖から身を震わせている稲穂の雄の象徴は持ち主の心情とは裏腹の反応をして、より一層股間を膨らませる。本能というものはどうしようもなく正直だ、と、稲穂は悟り、目を閉じた――が直ぐに見開くことになる。

「ちょっ!?俺の食用バナナの栽培種 (キャベンディッシュ・バナナ)をどうするつもり!?」

 モンスターガール(仮)の腕が稲穂のズボンを脱がそうとして荒々しく動くが、つなぎ服の為にそれが出来ないでいる。つなぎ服を脱がせるには、先ずは上着部分から攻略していく必要があることをモンスターガール(仮)は知らないようで、彼女は顔を顰めると、その手を止めた。服を脱がせることを諦めたのかもしれない、と、稲穂は一縷の希望を見出す。

(キャベンディッシュ・バナナの試食(テイスティング)を諦めてくれたべか!?)

 逃げる隙が出来たのだと思った途端、モンスターガール(仮)は稲穂の服にもう一度手をやると、力尽くで引き裂いた。

「えええええっ!?それは想像もしてなかった!!どうしよう、この姉ちゃんワイルドすぎるよ!?」

 つなぎ服を破り捨てる作業に入っている彼女は四本の腕全てを使用している。ということは稲穂の拘束は解かれているので、逃走するチャンスなのだがモンスターガール(仮)の予想の斜め上を行く行動に驚愕している稲穂は目的を忘れ、バナナと間違えてダンベルを齧ってしまったゴリラのような顔で彼女の行動を観察している。
 つなぎ服諸共白色のブリーフパンツは失われ、中に着ていた白地に大きな文字で道産子と書かれているTシャツのみという姿になった稲穂は、最早変質者としか言いようがない。

「はっ!いけねえ、逃げねえと……」

 と漸く気が付いたところで、時既に遅し。腰が砕けて立てないので、這って逃げようとした稲穂はあっという間にモンスターガール(仮)に捕獲されてしまう。

「おうっ、!!!俺の尻に生のちっぱいが当たってる!!!」

 背後から稲穂の腰をがっちりと捕らえているモンスターガール(仮)はするりと手を伸ばして、彼の股間の自称キャベンディッシュ・バナナ――他称島バナナ――を掴み、ゆるゆると扱き出した。その動作は稲穂に快楽を与え、同時に搾乳されている乳牛の気分になったかのような錯覚にも陥らせる効果を伴っていた。

(やばい、この姉ちゃん、搾乳が上手いべ……っ!?ぬおおっ、もう……出る……出ちゃうぅっ!)

 モンスターガール(仮)の巧みな手淫で極限まで張り詰めた欲望が弾けそうになると、彼女の手が止まった。寸止めをくらった稲穂は唖然とし、次の瞬間、視界が一回転して、彼は再び仰向けの体勢にさせられる。モンスターガール(仮)はにやりと笑い、勢い良く腰に巻いていた布を取り去って下半身を丸出しにすると、ぽかんとしている稲穂に跨った。そして、血管を浮き上がらせて、がちがちに硬くなっている稲穂の自称キャベンディッシュ・バナナを自らの局部に宛がい――一気に飲み込んだ。

「ふぉおおおおおっ!!?俺のキャベンディッシュ・バナナが変形して、姉ちゃんと合体しちゃったんだけどおおおおおっ!?ええええ、良いの!?俺で良いの!?有難うっ!!!」

 動揺と興奮が入り混じった複雑な感情に支配されている稲穂が訳の分からないことを叫ぶ。前戯を施している様子が見られなかったモンスターガール(仮)の局部は充分に潤っていて、熱く柔らかて、淫らに蠢いて獲物を弄んでくる。

『**********』

 モンスターガール(仮)は恍惚とした表情を浮かべて、稲穂の毛深い腹の上で艶かしく柳腰を動かしている。
 彼女は自分との行為を楽しんでいる、と、思い込んだ稲穂が調子に乗って彼女の腰に手を伸ばすが、それは為されなかった。もう一度稲穂の腕を地面に縫い付けて動かせなくしたモンスターガール(仮)は情交の主導権を握っていたのかもしれない。

(あ……駄目だあ……天国だあ……!)

 思い通りにさせてもらえないというのに、それでも至上の快楽を味わわせてくれる技巧派のモンスターガール(仮)に屈し、稲穂は先程寸止めされたこともあってか、あっという間に彼女の中に欲望を解き放ってしまう。緊張が解けたバナナがへなへなと萎れていくのを体内で感じとっているだろうモンスターガール(仮)は、未だ満足していないような表情をしている。稲穂の拘束を解くと彼女は彼の腹の上から移動するなり、稲穂の両足をむんずと掴むと大きく開かせた。

「は?え?ええ!?そ、其処は駄目だべ!!新しい世界が開けちゃう!!!」

 稲穂の懇願をあっさりと無視して、モンスターガール(仮)は岩海苔の中に埋もれている彼の秘密の場所の周囲を指の腹で暫く撫でると――相手に断りもなく、いきなり指を其処に突っ込んできた。稲穂は悲鳴を上げるが当然のようにモンスターガール(仮)には聞き入れては貰えず、彼女は挿入した指を動かして、腸壁越しに彼の前立腺を強引に刺激してくる。そうされてしまうと、力を失っていた稲穂のキャベンディッシュ・バナナは活力を得て、天に向かって立ち上がった。

『**********』
「――ちょ、も……っ、むりぃっ」

 繋がっては欲望を吐き出して、バナナが萎れてしまっては強制的に復活させられて、また繋がっては欲望を吐き出して――を繰り返させられた稲穂はげっそりとした表情で白目を向いて、別の世界に旅立つ寸前のところだ。
 ――恋人のいない寂しさを紛らわせるために成人向けの漫画を読んだりすることがある。内容によっては性欲の権化となった主人公が只管にヒロインとの行為に励むものがあるが、現実は違うようだ。そういった漫画の主人公にとっては喜ばしい状況にいるらしい稲穂だが、もう何度目かも分からない合体が嬉しくない、寧ろ侘しく感じられる。

(絶倫は漫画の中でだけの話のようです……キャベンディッシュがひりひりする……無理だ……これ以上は無理だ……!)

 今まで知ることのなかったことを一つ知って賢くなった稲穂は、まだまだ元気いっぱいのモンスターガール(仮)に跨られ、腰を揺らめかせられながら――気絶した。

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