※翻訳などなどを駆使して作成した英文、そして和訳ですが、正解かどうかはちょっと分かりません。
添い寝と言う交換条件を飲んで一週間。
二日目までは非常に緊張を強いられましたが、人間とは”慣れる生き物”で御座いまして、以降は自身も驚くほどの快眠生活で御座いました。抱き枕扱いをされることにも慣れたのですが、ただ、寝る前にされる”おやすみのちぅ”だけはどうにも慣れず、毎回赤面してしまいました。
「これも条件に含まれているのですか?」と試しに尋ねてみましたらば、「ええ、含まれています」と爽やかに返されたのも今は昔、ということに致します。
――とまあ、そんなこんながありまして。遂に、コートを買いに行く日がやって参りました。
馨に選んで頂いた服を着て、いざ行かん!です。
待っていてください、ふわふわ(のついたコート)さん……!
「あのー、お一人ですか!?」
このようにして立ち止まるのは、これで何回目でしょうか。三回目くらいまでは数えていましたが、それ以降は飽きました。
武藤さんの斜め前から声をかけてきたのは、二人連れの女の子でした。お化粧をしていらっしゃいますが、推測するに年の頃は私と同じくらいでしょうか。
彼女たちの位置からだと私は、背の高い武藤さんの陰に隠れてしまっているので存在に気がついて頂けていないようです。ですから、「お一人ですか」と声をかけられたのだと思います。
――態と、という可能性もありますが他意はないと思いたいです。
「いいえ、一人ではないです。ね?」
と、頭上から穏やかな低い声が。反射的に顔を上げると、にこやかに見下ろされていました。同時に殺気も感じたので其方にも目を向けると、お嬢さん方に睨まれていました。
私が何をしたと仰るのか……!あ!若しかして、手を繋いでいるからですか?こ、これはですね、はぐれるといけないからと……!「人混みの中を歩くのは慣れていないので迷子になりそうでした」と、先日の馨とのお買い物の感想を言ってしまったばかりにこうなってしまっただけでして……!
「わー、日本語上手ですね!びっくりしましたぁ」
ふんわりとしたパーマをかけたセミロングの女の子が胸の前で手を合わせて、上目遣いで猫撫で声を出しました。これが馨が教えてくださった、”ぶりっ子攻撃”というものでしょうか。私には出来ません、難易度が高いです。
「そうですか?有難う御座います」
武藤さんがにっこりと微笑まれますと、彼女たちはぱっと顔を赤くしました。
「あの、良かったらお茶でもしませんか、三人で」
他意はないと思いたかったのですが、他意はばっちりとありましたようで。私の存在はなし、という方向で決定付けられているようです。懐かしいですね、この疎外感。
「折角お誘い頂きましたが……申し訳ありません。用事がありますので、失礼致しますね?」
日本語がとてもお上手な美貌の外人が神々しい微笑を浮かべると、彼女たちは茹蛸のように真っ赤になって腰を抜かしました。衝撃が強すぎたんですね。
「先に進みましょうか」
「え?あ、はい……」
ぽけ~っとしていた私の手を引いて、武藤さんは歩き始めます。私の歩幅とペースに合わせて、ゆっくり、ゆっくりと。
「すみません、何度も立ち止まってしまって……」
「いいえ、気にしておりませんので」
鬼気迫る女性に囲まれるよりは良いです。あれは本当に恐怖です。
「……こんなに女性に声をかけられますのに、どうして貴方には恋人がいないのでしょうか?」
以前から不思議に思っていたことを口に出すと、繋いだ手から武藤さんが身を固くしたのが伝わってきました。
「さあ……何故でしょうね……?」
「?」
口元は笑っていらっしゃいましたが、目が笑っていませんでした。
何か不味いことを言ってしまったのかと悩んでいるうちに、目的のお店についていました。
「どんなお洋服をお探しですか?宜しければ、お手伝い致します」
「いえ、もう決まっておりますので。ご親切にどうも」
店員さんが代わる代わる、武藤さんに声をおかけになります。その他のお客さんも、お洋服を見ながらちらちらと彼を見ているのが目に入ります。
いやはや、呪いのようにモテるのは辛いですね。ご愁傷様です。
「良かったです、未だ残っていました……!」
ふわふわつきのコート――もとい濃いブラウンのファーがついたベージュのポンチョ風コート(税込み二万九千円)は、Lサイズのものは売れてしまっていましたが、MサイズやSサイズのものは残っていました。売れてしまっているかと心配しておりましたが、残っていたので安心しました。
ポンチョ風コートですのでSサイズでも良いかと思ったのですが、だぼっとゆとりがある方が好きなので、Mサイズのものをもう一度羽織ってみます。
「うふふ、ふかふか……」
ファーのふわふわは勿論、ポンチョ部分の肌触りも良いです。うふふ、たまらないです……。
「……ふっ」
「?」
ちらりと隣を窺いますと、武藤さんが口元に手を当てて顔を逸らして、肩を揺らしていらっしゃいました。
「……何か面白いことでも申し上げましたか?」
「……いえ。朝雪さんは素直で可愛いなあと思いまして」
「そう思われたのでしたら早々に眼科、若しくは脳神経内科に行かれることをお勧め致します」
「……」
美形が悲しそうな顔をして黙りました。私はまた言葉の選択を間違えたようです。会話って難しいですね。
コートを持ってお会計に行きますと、意気揚々とレジを打つ店員さんの後方で嘆いている他の店員さんが数人見えました。誰が武藤さんの相手をするのかを決める戦いが静かに行われていたのではないかと推測されます。正直に申しまして、怖いです。
「お買い上げ有難う御座いました。またのお越しをお待ちしております」
「どうも有難う御座います」
お会計を済ませて、コートが入った紙袋を受け取る際に武藤さんが笑顔でそう仰いますと、対応された店員さんがその場に崩れ落ちました。恐るべし、微笑みの紳士――屋敷にいらっしゃった奥様方が(以下略)――。
「コートを買ってくださいまして、誠に有難う御座いました」
「いいえ、どういたしまして」
お店を出た後に邪魔にならないところで、お辞儀をしてお礼を言います。そして彼の手にある紙袋を取ろうとしましたらば、避けられました。諦めずに二度、三度と挑戦しますが、終いには腕を高く上げられてしまいました。
相手は185cm、対する私は153cm――背伸びをしても、飛び跳ねても届きません。
「に、荷物……!」
「荷物持ちは男にさせるものですよ、朝雪さん」
「男女平等を謳う世の中です、関係ないです」
「……僕がしたいので、荷物持ちをさせてください。……ね?」
寂しそうに笑わないでください、弱いのです。
結局何も言えなくなってしまって、荷物を自分で持つことは諦めました。
「……ああ、そうだ。本屋へ寄っても良いですか?探したい本がありまして……」
「はい、どうぞ。えぇと、私も寄ってみたい雑貨屋さんがあるのですが……」
本屋さんと雑貨屋さんはそれほど離れていないようでした。
付近にあったモニュメント時計を待ち合わせ場所とすることにして、一旦別れます。
猫や犬の足跡のステッカーが所々に貼られたウィンドウショッピングに飾られているのは、可愛らしい動物のグッズでした。通りがかった際に心を奪われていた私は、雑貨屋さんの中に足を踏み入れると、早速幸せを噛みしめていたのでした。
私は猫さんが大好きなのです。亡くなったお父さんが動物アレルギーを持っていましたので、飼ったことはありませんが、偶に猫さんを飼っている同級生のお宅に伺って、触らせて頂いていたりはしていました。
ふわふわの毛並み、愛くるしい表情、気分屋さんなところなど……猫さんの魅力は一言では語りつくせません。
犬や兎、その他の動物をモチーフにしたグッズもありますが、私の目は猫さんばかり探しています。黒猫さんの縫いぐるみは、抱きしめて眠るのに丁度良さそうな大きさです。デフォルメされたトラ猫さんのストラップも可愛いです。
何でしょう、この幸せ空間は。
「――あら?」
ストラップが並べられているコーナーを見ていると、柴犬のものを見つけました。その瞬間ふっと、アイルランド産の大型犬(人間)の顔が脳裏に浮かんできました。
他の犬種のものがないかと探してみましたが、チワワやパグ、ビーグルはあれども大型犬のものは残念ながら見当たりません。小型犬、という印象はあの人には全くないですし……黒毛のラブラドールがあったらなぁなんて思いつつ、私はそれを手にとっていました。
「お買い上げ有難う御座いましたー」
黒猫さんの縫いぐるみと、トラ猫さんと柴犬のストラップ購入した私は、嬉々としてお店を後にします。家に帰りましたら、早速トラ猫さんのストラップを鞄につけて、それから黒猫さんの縫いぐるみを心ゆくまで抱きしめましょう。
柴犬のストラップは、今日の御礼に武藤さんに差し上げようかと。喜んでくださるでしょうか?携帯電話やキーケースにつけてくださるでしょうか?
なんて考えて、はたと気がつきます――二十三歳の成人男性が、可愛らしいストラップを必要とするのだろうかと。
――やらかしてしまいました……!!!
猫さんに気をとられて浮かれていた私は、一番大事なことを忘れ去っていました。い、いえ、自分で使えば良いのです。猫さんが一番ですが、犬も好きなのです!ほら、問題はあっさりと解決しましたよ……!
あれこれと考えながらも足を動かして、待ち合わせ場所である時計のモニュメントを目指しておりますと、既に用事を済ませたらしい武藤さんが待っていらっしゃいました。若しかしたら、随分と待たせてしまっているかもしれません。申し訳ないと思いつつ声をかけようとした時、彼の隣に一人の女性がいることに気がつきました。
毛先にパーマをかけた、明るい茶色のショートヘアの女性は、武藤さんの腕に絡みついていました。彼女の腕を乱暴に振り払うこともせず、うんざりといった様子で虚空を見つめている彼は、時折首を左右に振ったり、やんわりと断りを入れているのか手を振ったりしています。そんなつれない態度をとられても、彼女は熱心に話しかけていました。
――ナンパされているのでしょうか?それとも……?
足が棒のようになって動けなくなってしまった私は、離れたところでその光景を眺めています。でもそうしているうちに、段々と胸の辺りがむかむかしてきました。頬を桜色に染めながら武藤さんを見つめている女性を、私はもどかしく見つめています。
馴れ馴れしく、その腕に絡みつかないでください。
話しかけて、優しい声を聞こうとしないでください。
顔を覗き込んで、綺麗な青灰色の目に映ろうとしないでください。
その人は私の……私の……。
私の、何?
私は今、どうして腹を立てていたのですか?あの二人を、どうしてもどかしく見つめていたのですか?
私は思っていたはずです――武藤さんは早く恋人を作ったら良いのにと。なのに、若しもそうなったら私の居場所がなくなってしまうのだと思いました。
あの頃は、そうなるべきだと思っていたはずなのに、今の私は全く反対のことを思っています。
つまり私は、あの女の人に対して嫉妬をしたのでしょうか?だとしたならば、私は自分勝手です。嫌です、嫌です、そんなことをしてしまう自分がとても嫌です。
「――っ」
不意に視線が交わりました。それまでは明後日の方向を見ていた武藤さんが此方に気がついたようで、彼は何故だかほっとしたような表情を浮かべました。
――どうして、そんな顔をするのですか?
私の心の中は、ぐちゃぐちゃです。それを知られたくなくて、見知らぬ女の人と一緒にいるあの人を見ていたくなくて。私は踵を返して、早足でもと来た道を引き返していました。
「……朝雪さんっ」
声が聞こえたのと同時に後ろから腕を掴まれて、自然と足が止まります。
「……どちらへ行かれるおつもりですか?」
きっと今の私は情けない顔をしているだろうから、振り向けませんでした。ですから、背後にいる武藤さんの表情が窺えません。ただ、声音に焦りと僅かの怒気が混じっているように感じられます。私の腕を掴む手に力が入っていて、少し痛いです。
「……お話をされているようでしたから、邪魔をしてはいけないと思いましたので……もう少し何処かで時間を潰した方が良いかと……」
「そう……なのですか?……邪魔をしてくださって良かったんですよ?寧ろ、して頂きたかったです……」
先程の女性は、武藤さんの高校の同級生だったのだそうで。此方の気持ちを考えない押しの強いところが当時から苦手だったのだと、彼は苦笑混じりに言いました。
「そう、ですか……早とちりをしてしまいまして、失礼致しました……」
私が逃げようとしていたのではないと思われたのか、腕を掴んでいた手が離れました。私はどうしても顔を見られたくなくて、未だに俯いたまま振り向けずにいます。
「随分と大きな紙袋を持っていらっしゃいますが……雑貨屋で何か買われたんですか?」
返事をする代わりに、こくりと頷きます。
折角武藤さんが話を振ってくださったのに、それ以上話の内容を弾ませることが出来なくて、会話が途切れてしまいました。私が気のきく人間でしたら、こうはならないのに。
どうしたら良いのだろうと考えれば考えるほど、何故か視界がぼやけてきました。涙腺が弱くて、困ります。
「あ―――っ!!ダーリン見―――っけ!!!」
ぐすっと鼻を啜った時です。突然大きな声がしたので、思わず身を強張らせてしまいました。
「……げっ」
「?」
武藤さんの口からは凡そ出てきそうにない感嘆詞が漏れ出たので、私は驚いて振り返っていました。
見上げた先にある整った顔は、珍しく嫌悪を露にしていて、声がした方向を半目で睨みつけています。何かあるのかと思い、私も其方に目を向けます。すると、短く刈った茶髪の男性が、両腕を広げてにこやかに駆け寄ってくるのが視界に入ってきました。
――何方様ですか?
「一日振り、ダーリン!元気にしてたぁー!?」
抱きつこうと接近してくる男性は、速度を落としません。このままでは確実にぶつかってしまいます。ですが、そうはなりませんでした。武藤さんが男性の頭をがしっと掴んで、必要以上に近寄ってこられないようにしていたのです。
助かりました――が、紳士と評判の武藤さんらしからぬ行動にびっくりです。
「
「
「
「
頭上では、早口の英語が飛び交っています。内容は全く分かりません。お手上げです。ですが、何となく分かったことがあるのです。
――若しかして、お二人はお知り合いですか?