ネネとスー

《スーリヤが寧々子に惚れるまで》

離れたくないし、離してもやれない

 寝台の上にネネをおろし、寝室のカーテンを素早く閉めきったスーリヤは戸締りをしに行く。
 やっとここまで漕ぎ着けたのだから、誰にも邪魔をされたくない。それほど人が訪れる家ではないのだけれど、念には念をということで。

 用事を済ませて寝室へと戻ってくると、寝台の上のネネが既に服を脱いでいたので愕然とし、額を押さえながら項垂れてしまった。

「……お前ってどうしてそんなに積極的なんだ?」

 もうちょっと、こう、艶事の情緒とかそういうのを大事にして欲しいような。
「どのみち脱いじゃうんだもん、いいじゃない」 なんて言い返してくるネネに言ったところで無駄か。嫌がられるよりは良い、ということにしておこう。
 ――一応、主張はしておくが。

「……女の服を脱がすのは男の楽しみなんだぞ。少なくとも、俺はそうだ」
「じゃ、ちょっと待ってて。もう一回着るから……」
「……また今度で良い」

 色気のない奴、とごちながらネネを引き寄せて横たえ、その上に覆い被さる。体の下にいるネネが「色気なくてごめんね?」 と返してくるので笑ってしまいそうになる。
 ネネがそんなだから、からかいたくなるのに。

「……それがネネだろ」

 無理をして(しな)を作られても気味が悪いと冗談を言うと、彼女は流石にむっとしていた。言い過ぎたか、と思ったのだが、考え事をしている風なネネが笑い出して「それもそうかも」と納得していた。いや、納得されても。

「ふふっ」

 ネネの小さな手がスーリヤの頬を包み込み、彼女が触れるだけの口付けを何度も施してくる。ネネの首や肩、脇腹をなぞるように触れると、彼女の顔がうっとりとしてきたのが見えた。
 腰から太腿の線をなぞっていた手を上に持ってきて、”あの夜”にも触れたネネの柔らかくて大きな乳房をやんわりと掴み、やわやわと揉みしだく。
 やがて胸の頂が赤く色づいて立ち上がってきたので、「……気持ち良いか?」 と尋ねながら、其処をきゅうっと摘む。甲高い嬌声を上げる唇を貪っていたスーリヤは口付けからネネを解放すると、荒い息をしている彼女の顎を捕らえ、上向かせた。そして無防備な喉にスーリヤが食らいつくと、ネネは身を強張らせた。けれど抵抗する意思はないようで、スーリヤの甘噛みを受け入れている。
 スーリヤがするこの行動には、”食べてしまいたいほど、あなたを愛しています”という意味がある。虎の亜人(ドゥン)の間でのみ通じる表現だ。ネネはそのことを知らない筈なのに、酔っ払っていた時もそうでない今も受け入れてくれている。拒まれないことが酷く嬉しく、そのことに満足したスーリヤは牙を離し、薄らと歯型のついた其処をざらついた舌で舐めた。

「んぅ……」

 漏れ出る嬌声が恥ずかしいのか、ネネが両手で口を塞ぐ。勿体無いことをしないで欲しい。ネネが艶かしく鳴いているさまを見たい。
 障害となっている両手を外すと、彼女は声が出るのが恥ずかしいと言う。惜しげもなく裸体をあっさりと露見させたくせに、そんなことを言うなんて――。ネネは大胆なのか繊細なのか分からないと、笑みがこぼれる。
 美味しそうに色づいている胸の頂を口に含んで其処を弄い、もう片方は親指の腹で弄う。空いている方の手で震える内股を撫で上げて、蜜を零し始めているネネの秘所の周囲を指でなぞる。
 何かを言いたそうな吐息を耳にしながら頭を下げていき、臍の近くの滑らかな肌に吸いつく。窄めた舌先を臍に捩じ込んでみると、ネネの体が大きく跳ねた。

「あっ、やぁ、スー……!」
「……臍……弄ると感じるのか……」
「やぁ、スー、そんなとこ弄らないでよぉ……っ」
「嫌、ねぇ?今のでお前が零す蜜の量が増えたぞ……?」

 慎ましやかに閉じられている花弁を広げて、まじまじと見つめる。カーテンを閉めきっているので寝室の中は薄暗い。人間のネネの目にはどう見えているのかは分からないが、生憎と虎の亜人(ドゥン)であるスーリヤの目には其処がどうなっているのかが丸見えだ。

「……ほら、物欲しそうにひくついて……泉みたいに蜜が湧き出てきてる……」

 そう言うと、触れている箇所から彼女の体が熱くなったのを感じた。彼女の羞恥心を煽ってしまったのだろうか。
 ネネは明け透けに物を言うのに、スーリヤがこういうことを言うと恥ずかしがるのか。本当にネネは、よく分からない。だからこそ、面白いのだけれど。
 花弁の奥の襞を舌先で舐め、隠れていた花芯が顔を出しかけているので包皮を剥いて指の腹でやんわりと刺激する。隠微な水音を立てながら秘所を堪能していたスーリヤは、入り口の縁を舌先でなぞり、肉厚なそれを中へと捻じ込み、浅く出し入れを繰り返す。

「スー……らめぇ……やあぁ……っ!」

 いやいやと首を振っているのに、ネネの両手はスーリヤの頭を秘所に押し付けるように伸ばされている。もっと触れて欲しいと希われているようで、気分が良い。

「も……駄目……入れて……?」
「……未だ駄目」

 緩慢な刺激に耐えられなくなったネネがスーリヤを欲するが、彼はその願いを却下した。スーリヤの分身は、ネネには大きいかもしれない。いや、自慢とかそういうのではなくて。
 ネネは「意地悪」と言って、潤んだ目でぷくっと頬を膨らませた。睨んでいるつもりなのだろうけれど、凄味は全くない。

「……お前が大事だから……意地悪してんだよ……」

 そう耳元で囁くと、彼女は機嫌を直してくれたようだ。若しも爪が当たったりしてしまったら殴るなり蹴っ飛ばすなりしろと前置きをしてから、ネネの秘所に人差し指を埋め込んでいく。やはり、ネネの中は狭い。

「さて……ネネのイイトコロは……この辺りだったか?」

 お預けを食わされた夜のことを思い出しながら、或る一点を狙い、強く擦る。ネネが大きな嬌声を上げて、体を跳ね上げる。記憶は正しかったようだ。

「あっ、あっ、あぁん、やぁっ、スー!そこぉ、やらぁ……っ!」
「嫌?その割には俺の指を締めつけて離さないなぁ?……もう一本いけそうだな」
「ひぅっ!?」

 息も絶え絶えなネネを気遣いつつも、ソコに埋め込む指を増やす。彼女のソコが慣れてくるのを見計らい、滾々と湧き出る蜜の助けも借りつつ更にもう一本指を増やした。

「スー……も……いい……?」

 狭くきつかった秘所が大分解れて広がるようになってきた頃、ネネがスーリヤの目を見つめながら、もう一度哀願してくる。

「……そうだな」
「じゃ……スーも気持ちよくなろ……?」

 そろそろ我慢の限界だと思っていたところでそんなことを言われてしまうと、なけなしの理性があっという間に働きを止める。不意打ちで花芯を擦りながら秘所から指を引き抜くと、ネネは達した。艶かしい様子でびくびくと体を痙攣させているネネを見下ろしながら、スーリヤは手早く服を脱いで、床に放っていく。
 すると、ネネが妙な言葉を呟いた。

「………………………………………………………………………………ツチノコ?」
「ツチ……?何だ、それ?」

 ネネの様子がおかしい。目を見開いて、赤くなったり青くなったりと百面相をしている。

「いや、あの、スーのツチノコ、違う、そ、それ、大きすぎじゃない……?」

 ネネの目線を追ってみると、自分の股間に辿りつく。何となく、察しがついた。ネネの言う”ツチ何とか”と”大きすぎ”が何を意味しているのかを。

「……標準だろ」

 あくまで虎の亜人(ドゥン)の男では、の話だが。ネネのソコには少々大きいかな、とは思ったけれど――人間の男のアレの大きさなんて知らない。スーリヤの答えでは納得出来ないらしいネネが明後日の方向を見ながら、「標準の基準が分からない」と零した。
 言っておいてなんだが、スーリヤにも標準の基準は分からない。

「……水を差すようなこと言ってごめんね?萎えてない?」

 と、心配そうに見上げてくるネネが面白くて笑ってしまう。

「……っ、本当に色気がないな、お前……っ」

 ネネと出会って初めて、肩を揺らすほど笑った。これまでの人生でも、これほど笑ったことはないかもしれない。こんな風に笑えるのかと、スーリヤは安堵した。

「……そう簡単に萎えるかよ……ずっと我慢してたんだからな……」
「え?ひゃあぁっ!?」

 膝裏を掴んで体を二つ折りにするようにすると、ネネが色気のない悲鳴を上げる。直ぐにでも貫いてしまいたいのを我慢して、蜜を滴らせている秘所に擦りつけるとネネが堪えるような吐息を漏らした。

「……入れるぞ?力抜け……」
「うん……」

 ネネの蜜を充分に絡ませた陽物を秘所の入り口に宛がい、先端をゆっくりと埋めていく。最も張り出している部分まで入ったところで一旦動きを止めて、苦しげに息をしているネネの様子を窺う。
 痛がっているのだろうかと心配になったがそうではないらしい。受け入れたことのない大きさのソレに与えられる圧迫感に耐えているようだ。

(……ごめんな。止めろって言って良いんだぞ……)

 そうは思うけれど、彼女にそう言われない限りは止めてやれない。彼女の感じるところを刺激して中の緊張を解いていっては少しずつ腰を進めていき、締めつけが強くなると動きを止めて――を繰り返しているうちに、スーリヤの先端がネネの一番奥に辿りついた。

「お、く、当たって……っ!」
「ここまで、か。全部は流石に無理か……」

 それでも、嬉しい。満足だ。
 ネネと繋がっている部分を眺めていると、ネネがのろのろと手を動かして其処に触れてきた。震える唇を笑みの形にして、涙をぽろぽろと零している姿にスーリヤの内に巣食う欲情の色が益々濃くなる。

「……余裕ありそうだな。動いていいか……?」
「ん……良いよ……」

 ゆっくりとぎりぎりまで引き抜いて、再びゆっくりと奥まで穿つ。ネネの様子を窺いながら、徐々に腰の動きを早くしていく。ネネの中が淫らに蠢いて、奥へ奥へとスーリヤを導いてくる。

「スー……きもちい……っ?」
「ん……良い……」
「あっ、ほ、ほんと?んっんっ、やぁ……っ!」
「ん……こら……そんなに締めつけるなよ……」

 突然の締めつけに、危うく精を吐き出してしまいそうになった。危ない危ない。それを悟られないように動いて、気持ち良さそうに、苦しげに、切なそうに喘ぐネネを見つめる。

「んあ、あっ、スー、スー……っ!」
「ネネ……寧々子……」
「うぇ?あ、ひぁあ……っ」

 恐らく村ではスーリヤだけしか知らないであろうネネの本当の名前が、口を衝いて出た。彼女が一瞬不思議そうな表情をしたように見えたが、直ぐに快楽に酔いしれる表情に戻った。――気付いていないかな?

「……はぁ……っ、搾り取られそ……っ」

 気を抜くと、直ぐにでも欲望を吐き出してしまいそうになる。熱くて狭いネネの中は、それほどまでに心地良い。

「あっ、ひっ、スー、いっちゃう……っ!」
「ん……俺も、限界……っ」
「ああぁぁぁ――っ!」

 悲鳴のような嬌声を上げて達したネネに僅かに遅れて、スーリヤも限界を迎え、滾るように熱い精を彼女の胎内に吐き出した。

***************

 ネネと繋がったままでいるスーリヤは、彼女の頭の上に腕を突いて、荒くなってしまった息を整える。ある程度落ち着いたところで、彼の下でとろんとした目をして虚空を仰いでいるネネに口付けて、意識を此方へと向けさせる。
 すっかり忘れていた、物凄く大事なことをやっと思い出したので。

「……悪い、言い忘れてた。寧々子、愛してる」
「え……っ?」

 瞠目しているネネに――寧々子に怒られる前に唇を塞いで深い口付けを施して、沸いているであろう怒りを鎮めようとする。我ながら小狡いことをするものだと思う。
 寧々子を引き留めることに必死で、大事な言葉を言い忘れていた自分が悪いのに。

「ど……して、寧々子って言えてるの?え?え?あの時、言えなかったよね?あれ?覚えててくれたの?ねぇ、何でぇ……!?」
「……さぁ、どうしてだろうなぁ?」

 大粒の涙を零す寧々子を宥めようと顔中に口付けの雨を降らせるが、彼女の問いには答えない。

「スーの意地悪……っ!今まで素っ気なかったし、そんな素振り見せたことないのに、どうして愛してるとか、いきなり言うのぉ~っ!?ふぇえぇぇ~っ」
「……そうだな、悪かった」
「スーの馬鹿~っ!だけど心の底から愛しちゃってんのよ、あたしの馬鹿ぁ~っ!大好きなんだから、馬鹿ぁ~っ!」
「……くくっ、面白い奴……」

 意地悪だの馬鹿だの悪態をつきつつ、愛している、大好きだと言うネネが面白くて、いとおしい。もっと早くに覚悟を決めて、馬鹿みたいに愛していると言ってやれば良かったと少し後悔する。悲しませてしまった分は、これから挽回していけば良いか。
 その前に重大な問題が一つあるのだけれど、それについては今は蚊帳の外に。

「あたしも、スーのことスーリヤって言えるんだからね……!」
「……知ってる。陰でこっそり練習してただろ。だから俺も……――」

 何を思ったか、寧々子が得意げにそんなことを言い張ってきた。つられて本当のことを言いそうになったので、一度口を噤んだ。
 寧々子が自分の名前を言えるようにと練習しているのを見て、自分も彼女の名前を正しく言えるようになろうと思い立ち、彼女に知られないようにこそこそと練習していただなんて言えない。寧々子はそれを知ってもからかってきたりはしないとは思うのだが、照れくさいので何となく言いたくない。

「……でも、スーで良い。お前にスーって呼ばれるのは……好きだな」

 寧々子にそう呼ばれることが、いつの間にか好きになっていた。スーリヤという親に貰った名前で呼ばれることよりも好きなるとは、思ってもみなかったけれど。

「あたしもスーにネネって呼ばれるの、好きだよ……。だけど、偶にで良いから、寧々子って呼んで欲しいな」

 そんなことで喜んでくれるなら、何度でも何度でも「寧々子」と呼ぶ。その思いを込めて頷くと、寧々子が破顔一笑した。その笑顔を見たスーリヤは、困ったことになる。――また寧々子が欲しくなってきてしまった。

「……寧々子、そんな顔するな……」
「え?あたし、変な顔して……わっ」

 彼女の中に収まったままでいる欲望が鎌首を擡げたのが分かったようで、寧々子は慌てたが直ぐにまた微笑んだ。

「スー、もっとして……?未だ足りない、もっともっとスーが欲しいよ……」
「……腰抜かしたって知らねえからな」

 寧々子に求められることが嬉しいのに、口から出るのは別の言葉だ。この癖は直した方が良いと思う。兎に角気をつけよう。

「いいよ、それでも……」
「……ふぅん、あっそ……」

 そう心掛けた矢先に、いつもの癖で素っ気無い返事をするなんて。寧々子がしょんぼりとしていないかと心配したが、彼女は何故か笑っていた。まあ、しょぼくれていないのなら、それで良い。寧々子は笑っている顔が一番可愛い――恥ずかしいから彼女には言ってやらないけど。

 どちらともなく二人は顔を見合わせて微笑みあい、互いが満足するまで求め合った。

***************

 ――翌日の朝。
 夕飯を食べるのも忘れて互いを貪った結果として、予想通り寧々子を寝台から出られなくしてしまった。欲望に負けて、やりすぎた。

「た……立てない……」
「……だから言っただろ」

 上体を起こして枕を背もたれ代わりにして座っているスーリヤは、うつ伏せるように体を丸めて悶絶している寧々子を眺める。

「うぅ……ツチノコなめてました、すいません……」
「……だから、ツチノコって何だ……」

 紙と書くものを持ってきて欲しいというのでその通りにして、ツチノコとやらについて説明をして貰ったのだけれど、寧々子の描く絵がへ……芸術的過ぎて結局はよく分からなかった。寧々子の故郷で伝説の生物扱いされているらしい、とまで理解出来れば上々か。
――そんなものと一緒にされたのか、スーリヤのアレは。いや、そんなことよりも重大な問題があるのだ。これについては放っておこう。

 さて、どうしようか。
 大変なのは、これからだ

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