Post nubila Phoebus

焼き焦がすもの 3 ―自由人シリウス―

突如現れて、一瞬で魔物を消し炭にしてしまったシリウスに驚き、コガネたちは言葉を失い、呆然と突っ立っている。
静まり返った広間の中で、最初に口を開いたのはリゲルだった。

「何年……いいえ、何百年振りかしらね?久し振りね、シリウス。その顔、とても懐かしく思えるわ」
マシロの身体に魂を宿しているリゲルが、艶然と微笑む。だが対照的に、シリウスは久方振りの彼女との再会に喜ぶこともなく、表情も変えずに只ぼんやりと佇んでいる。
「君らを封じ込めて以来なのは知ってるけど、過ぎた年数には興味がない、ね。正直な話、どうでもい、い」
眠たげな目で見やれば、リゲルは眉根を寄せて不快そうな表情を浮かべる。
「単刀直入に言うけど、ね。その身体、君のじゃないで、しょ?持ち主に返してあげなきゃ駄目で、しょ?」
「……あら、其処の人間にでも聞いたの?駄目よ、返さないわ。交換条件を飲んで手に入れたのだもの、当然、これは私のものよ。そうでしょう?……その口調といい態度といい、何もかもがあの頃のままで変わっていなくて、腹が立つことこの上ないわね」
「それはこっちの台詞だ、し。また、馬鹿なことでも始める、の?学習能力がないね、可哀想、に……」
二人のデミウルゴスの間の空気が、ピンと張り詰める。
――若しかすると、この二人はあまり仲が良くないのだろうか。
そんな考えが、コガネの脳裏を過ぎる。数百年振りの再会を喜んでいるようには到底見えないし、互いに相手への嫌悪感を丸出しにしているようにしか見えない。

「ねえ、シリウス。アルタイルの手の者がいる人間側にいても、楽しくはないわよ?我々の側へいらっしゃいな」
「そっちが楽しい保証もないで、しょ」
「……『あの時』だって、元々、貴方が望んで人間側に付いた訳ではないではないの。だから今度は、此方側に来るのも一興でしょう?」
コガネたちの存在を無視して、リゲルはシリウスにだけ語りかけている。彼女のその様子にシリウスは、変わり映えのない奴、とでも言いたげに軽く息を吐いた。
「我々の側には、貴方の興味のある者がいるのよ?――此方へ来なさい、アイドネウス!」
リゲルが声を張り上げて指を鳴らすと、ハゼと接戦を繰り広げていたシロガネは後ろに大きく飛んで彼の攻撃を躱し、素早く身を翻してリゲルの下まで駆け寄ってきた。
「……それ、は」
「貴方なら、分かるでしょう?『これ』が『何』であるのか」
シロガネの姿を視界に収めた途端、シリウスの目が大きく見開かれる。

「……あの美青年が、シリウスとかいう奴の興味ある者……?」
あまり考えたくはないが、シリウスにはそちらの気があるのだろうか――と、トウカは邪推してしまっている。
「え~?」
「どういうことなのかしらね……?」
シリウスの興味を引いているのはシロガネの外見なのか、内面なのか、それとも別の何かなのか。
理由が特に見当たらないので、アキヒとトキワは顔を見合わせて首を傾げる。

「それ、『何処で手に入れた』、の?」
「知りたければ、此方側に来ることね。そうしたら、これは貴方の好きなようにしていいのよ?」
――食いついた。
リゲルは読みが当たったと確信して、内心ほくそ笑む。

「あの美青年を好きなようにしても良い……っ!?私、あっちに行こうかしら……」
「どうぞ、御自由に。あんたがいなくなれば、僕はソウシを独り占め出来るから有難いね」
「止めなさいよ」
「何で止めなくちゃいけないのさ」
トウカとアキヒが睨み合いを始める一方、コガネは不安で胸が押し潰されそうになっている。
(どうしよう……シリウスがリゲルの手を取ったら、マシロを助けることが出来なくなる……っ!)
不安と焦りが入り混じった目でシリウスを見つめていると、その視線に気が付いたのか、彼はコガネの方へ顔を向けた。
(……あの金髪の子が、ソウシの言ってたコガネ……か、な?)
――心配することはないよ。
ふっと脱力系の緩い笑みを浮かべて、もう一度リゲルの方へと顔を戻す。

「そっち側に付くとか、アルタ側に付くとか、そんなことはどうでもいい、よ。だってね、もう、ソウシと約束しちゃったから、さ。マシロって言う子を自由にしてあげるって、ね。反故にしたら、殺されそうだ、し?」
目の前の餌に釣られることもなく、シリウスはリゲルの勧誘を拒否した。
「……『これ』が欲しくはないの?あの頃、とても欲しがっていたではないの」
「研究材料として欲しがっていたのは事実だけど、今は特にそんな欲求はない、ね。ついでに、それ、『純血』だって保証もないじゃな、い。あとねぇ、俺ってさ、誰かから与えられるのって好きじゃあないんだよ、ね。つまらないで、しょ?」
リゲルから表情が消え、その目に暗い炎が宿る。
「……貴方はまた、アルタイルに……人間に手を貸すというの?何故なの?貴方は人間のことなど何とも思っていないし、まして、アルタイルに好感を持っているわけでもないではないの」
遠い昔、シリウスとアルタイルは顔を合わせたとしても親しく会話を交わすような間側ではなかった。シリウスは何者とも深く関わろうとはしない人物だった、と、リゲルは記憶している。
「そうだ、ね。間違ってはない、よ」
アルタイルに関係する事柄については、彼は否定はしなかった。
「俺はアルタと手を組む心算は、一切ない、よ。ありえない、ね。人間の味方なんてのもするつもりはな、い。ただ、ソウシが気に入ったから、俺は彼らに手を貸すだけだ、よ。それに……」
リゲルをじっと見据えて、シリウスは爽やかな笑顔を浮かべて、はっきりと言い放った。

「アルタも嫌いだけど、リギィもベータも嫌いだ、し?」

その一言は、場の空気を凍りつかせた。
(……はっきり言った!!!)
(思いっきりイイ笑顔で言いやがったよ、あの人!?)
自分たちが完全に蚊帳の外にされていることよりも、シリウスの予想外の発言に驚いている少年組は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまっている。
(ええと、『アルタ』というのがアルタイル……ハゼさんの背後にいるデミウルゴス……だと思われる人のことよね。『リギィ』がリゲルで、『ベータ』は恐らく……ベテルギウスかしら?)
シリウスが使用している略称の確認をしているトキワの横で、トウカは黙して控えているシロガネの姿に目を奪われていた。
「……」
ハゼは一人、離れた場所で静観している。
「まあ、そういう訳だから、さ。その女の子の身体、返してあげよう、ね?」
清々しい笑みは一変して、冷笑になる。
シリウスが手にしている杖の先端を、リゲルの方へと向ける。すると何処からともなく、彼女の周囲に無数の燐光が現れ始めた。
「!」
身の危険を察したりゲルは、寸でのところで得意のテレポーテーションを使い、自身を捕らえようとする燐光から逃れる。傍に控えていたシロガネもまた、巻き込まれないようにと素早く退避する。
「あ、そっか。リギィはテレポーテーションが使えたんだっけ、ね」
リゲルの特技をすっかり忘れていたシリウスは、ぽりぽりと頬を掻きながら少々気まずそうに目を逸らした。
「……あまり期待はしていなかったけれど、拒否されると癪に障るものね。あわよくばついでに『本体』の在り処も聞きだそうと思っていたけれど、興が殺がれたから、もうどうでも良いわ」
眉間に皺を寄せ、リゲルは舌打ちをする。
「そうね、その人間どもに飽きたら、此方へ来ると良いわ。いつまでも気長に待っていてあげるわよ?」
「気長にとか言うけど、さ。君、結構考えなしの短気だ、よ?君のその上から目線な物言いが激しく嫌いだから、そっちに行くとか、ありえない、し」
図星だったのか、シリウスに指摘されたことが気に入らなかったのか。
面倒臭そうに吐かれたシリウスの言葉を耳にした途端、リゲルは眉間の皺をより一層深く刻み、顔を引き攣らせた。
――リゲルのそんな表情を見るのは初めてだ。
傍観者にならざるを得ないコガネは、シリウスだけが彼女にそのような表情をさせることが出来るのかと半ば感心、半ば呆れ気味に彼を見ていた。
「……次に会う時は、色好い返事を待っているわ」
「いや、次とかないし、絶対、に。あのさ、人の話聞いて、た?」
シリウスはまたしても、容赦なく切り捨てた。
「いつまでもシリウスが味方でいるとは思わないことね、人間ども!」
恨みがましい顔をして捨て台詞を吐き、リゲルはシロガネを伴って、その場から姿を消していった。

***************

「生命の危機は免れたけどさ。どうしてだろうね、いまいちどうにも釈然としないのは……」
リゲルとシリウスの二人によって存在を無視された事に、普段のアキヒであったなら確実に憤慨していただろう。しかし不思議な事に、腹は立つのだが、憤慨する気力はまるでない。
「あー、うん。生きてるから……結果オーライってことにしようぜ?」
ははは、と力なく笑うコガネにつられて、アキヒも同じように笑い、晴れ晴れとしない気持ちを誤魔化してみた。

「ソウシ様~~~~っ!!!」
「ぐふっ」

頃合を見計らい、トウカが先陣を切ってソウシに抱きつく。勢いをつけすぎたので、体当りを食らわされる形になったソウシが奇声を発する。
「あーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ぐえっ」
出遅れたアキヒは彼女に負けて堪るかと反対側からソウシに抱きつき、二人は取り合い合戦を始める。
「お前ら、少しは労われよ……っ!」
腹部を圧迫されているソウシが、苦しげに訴える。
「……無事でいてくれて、良かった。し、心配したんだからなっ」
潤んだ目をして今にも泣き出しそうなコガネを見て、ソウシは思わず吹き出しそうになるが、どうにか堪えた。
(こいつ、涙腺緩いんだなぁ……)
それだけ心配をかけてしまったのだと気が付いて、彼女は少し反省する。
「あの、水を差すようで申し訳ないのだけれど……。ソウシさん、この方は……」
断りを入れてから、トキワが遠慮がちにシリウスに目を向ける。
「お、悪ぃ、紹介すんの忘れてたぜ。こいつが、俺たちが捜してたシリウス・アイテルだ。実力の程はさっき見た通りだからよ、信憑性は高いだろ?」
魔物を一瞬で灰燼に帰すという、常人には成し難いことをやってのけたのは、この眠たそうな目をしている青年だ。そんな事が出来るのだから、デミウルゴスに間違いないだろうと彼女は言い切った。
「あの罠の先に、この方がいらしたの?」
「んあ~、話すのは少しばかり嫌なんだがよ~……」
暫し逡巡した後、ソウシはこれまでの経緯を渋々話し始めたのだった。

「はあ~~~?罠で下に落ちた後、水に流されて気を失って、シリウスに助けられたあ~~~?」
そんな馬鹿みたいな話があるのか。
アキヒが胡乱気な目を向けると、ソウシはがっくりと項垂れた。
「あんなぁ、嘘みてぇな話だけどよ、悲しい事に本当の話なんだぜ?」
と言っているソウシだが、一つだけ話の内容を省いている。『あの事』は何が何でも言いたくないようだ。
「ところで、其処の御二人さ、ん」
シリウスが不意に話を腰を折って入ってきたので、ソウシたちは目を点にする。
『其処の御二人さん』とは自分たちのことだろうか?そう感じたアキヒとトウカは、何となく自分自身を指差して、目線で問うてみた。
「そうそう、君と君、ね。あのね、そ~ろそ~ろソウシから離れてくれないか、な?もう充分に堪能したで、しょ?ソウシは俺ので、俺はソウシのだか、ら」
シリウスの爆弾発言に、ハゼ以外の全員が凍りつく。
「はあああああっ!?何言ってんのよ、このカイワレ大根がっ!!!性質の悪い冗談は止めなさいよ!!!」
「ん?冗談じゃない、よ?あれ、カイワレ大根って、若しかして俺のこ、と?」
「ちょっとソウシ、一体どういうことなのさ!?」
激昂した少年少女に詰め寄られるが、ソウシには何のことだか分からず、頭は混乱するばかりだ。何がどうなって、シリウスはあんなことを言ったのだろうか。
「知らねえよ、俺だって初耳だっつーの!おい、シリウス!てめぇ、巫山戯るなよ……っ!?」
「いや、俺は何時だって大真面目だ、よ?」
「てめこの野郎おおおおおっ!!!」
真面目くさった顔をしているシリウスの胸倉を掴み上げるソウシの顔は、鬼だとしか言いようがないほど恐ろしい。
――まるで、二股三股四股をした男を問い詰めている修羅場のようだ。
気が付けば傍観する羽目になっていたコガネとトキワは、そんなことを考えてしまった。
(妙な光景だよなぁ……)
女顔をした守銭奴の少年、勘違いから生じた恋に燃える大統領令嬢、デミウルゴスと呼ばれる不可思議な存在の青年がよってたかって、男性に見える女性の取り合いをしている。
滅多に見られるような代物ではないが、見たとしても大して嬉しくも何ともない。
(うーん)
そろそろ止めに入った方が良い気もするが、繰り広げられている光景が馬鹿馬鹿しく思えて仕方がないので、口を挟むのが億劫になる。
コガネがもう少し静観していた方が良いだろうかと思ったその時だった。
「大体なぁ、さっき言っただろうが!罠に掛かって落ちて、水に流されて気絶して、コイツに助けられただけだってよ!確かに感謝してるぜっ!?だがよ、それがどうして訳分かんねえ発言に繋がるんだ、ゴルァ!!!」
怒りの沸点を通り過ぎようとしているソウシの目が血走り、シリウスの胸倉を掴む手に力が込められる。

「だって、チュウした仲じゃない、俺た、ち」

またしても、その場の空気が凍りつく。

「ぎゃあああ――――――――――――――――――――――っ!!!」
絶対に知られたくなかったことをアッサリと暴露されてしまった。
衝撃が強すぎて堪えられなかったソウシは白目を向き、仰向けに倒れて失神してしまう。
「そ、そんな……っ!?私だって、未だしてないのに……っ!」
「したら問題だよ、あんた……っ!ていうか、ソウシが、あの男らしいソウシが、貧弱そうなコレと……っ!!?」
続いて、アキヒとトウカも彼女と同じように失神した。

「ソ、ソウシとシリウスが……っ!?」
「き、気絶していたと言っていたから、人工呼吸の事ではないかしら?想像すると中々強烈……いえ、そうよね、人命救助だもの、ええ……」
――誰もが予想をしていなかったことが、二人の間にはあった。
コガネとトキワは失神とまではいっていないが、失神に至る寸前までは驚いている。
「良いのではないですか?一応は『男女』なのですから、倫理上は問題ないでしょう」
今の今まで静観に徹していたハゼが、漸く口を開いて、コガネたちの下まで寄ってきた。彼はシリウスの爆弾発言を耳にしても、平然としている。
「あの、さ」
「えっ、何っ!?」
気が抜けている時に声をかけられたので、コガネは反射的に身体を強張らせ、声が上擦ってしまった。
「俺、頭脳と魔力はあるんだけど、腕力とか体力は皆無に近いんだよ、ね。だから、この三人、運んでくれないか、な?」
いつまでも迷宮の中にいては、先に進まないだろう?シリウスはそう言った。
「はい……?」
一理あるとは思う、しかし何となく納得出来ないのは何故だろう。
(あ、あれ……?)
三人が失神するようなことを言ったのは、シリウスではなかっただろうか。
シリウスのマイペース振りに、コガネは目を点にする。

相談した結果、最も体格の良いソウシをトキワが、次に背の高いトウカをハゼが、そして最も小柄なアキヒをコガネが担当する事に決定する。
失神している三人を背負い、予め仕掛けておいた糸を頼りにしながら、一行は来た道を戻り、地上を目指す。

***************

迷宮の中を暢気に歩いていたシリウスは徐に振り向き、最後尾を行くハゼをまじまじと見つめる。
「何か御用ですか、シリウス・アイテル?」
儀礼的に尋ねてみると、彼はすぅっと目を細めた。

「君、ハゼで、しょ?」
「おや……よく御存知ですね?未だ、名乗っていないはずなのですが」
そう、彼とは今初めて言葉を交わしたのだから。だが、シリウスは何故、ハゼが『ハゼ』であると断定出来たのだろうか。
「そうだ、ね。君は意図的に俺と話そうとしていなかったから、名乗ってはいない、ね。だけど、分かる、よ。だって嫌なくらい、アルタの匂いがするから、ね」
アルタ――その名を耳にした途端、ハゼの纏っていた空気が急速に冷えていく。
「……そうですか。それは非常に不愉快、ですね」
アテナイでコガネたちに襲撃をかけた時、リゲルはハゼを見て、直ぐに何かに気が付いたような表情をみせた。そしてヘライオンで対峙した時には、ハゼの事を『アルタイルの駒』と言っていた。
――デミウルゴス全員には、同類の匂いを嗅ぎ分ける能力が備わっているのだろうか。
自身もそのようにして、リゲルやベテルギウスを捜していた。然し、ハゼの場合はデミウルゴスやそれに身体を奪われている同調者を見分ける事が出来るのは、背後にいる『不届き者』の御蔭なのだが。
「一つお尋ねしますが。やはり同じデミウルゴスであるからこそ、同類の存在に気が付くのですか?」
「同類、ね……」
そうやって括られるのが気に入らないのだろうか。眠たげな表情をしていたシリウスだが、僅かに不愉快そうに眉を顰めた。
「長年嫌でも一緒にいると、そいつ独特の気配ってものを覚えちゃうんだよ、ね。そうだ、なぁ……。知らないうちに感じ取って認識しているのかもね、『同じものを持っている存在』だっての、を。離れていても、近くにいても、ね」
そんなものが分かったとしても、嬉しくも何ともないとシリウスは言った。
「それでは、もう一つ。何故、俺が『ハゼ』であるのかを尋ねられたのですか?」
「ん~?何となく、ね。君が『ハゼ』だから、アルタは君を利用しているのかな、とか、そんなことを思ったり思わなかった、り。……『見てるんだろ』、アル、タ?」
眠たげな目に力が宿り、前髪の奥に隠されたハゼの目を確りと捉えた。
然し直ぐに興味を無くしたのか、シリウスは前を向き直り、先を行くコガネたちの後を、のろのろと追いかけていく。それ以降は振り返ることはしなかった。

「……」
シリウスは何かに気が付いているし、そしてハゼも知らない何かを知っている。
(……デミウルゴスは、本当に不愉快な存在ですね)
表面には出さないでいるが、彼の心中は穏やかではない。

***************

――迷宮を抜け出した頃。
シリウスの爆弾発言によって多大なる精神的被害を被り、失神していた三人が漸く意識を取り戻した。

「シ~リ~ウ~ス~~~ッ」
「おはよう、マイ・スウィート・ハ、ニー」
「誰がだっ!!!」
復活早々、ソウシが怒りを爆発させる。
「そうよ、ソウシ様は私のダーリンなんだから!!!」
「違うよ、何言ってるのさトウカ。ソウシは僕の大事な仕事道具……間違えた、相棒なんだよ!?シリウスのものとか、ありえないから!!!」
「いや、だって、ね。ソウシは俺の嫁だ、し?」
三人から責められても、シリウスは怯まない。
「殺すわよ、カイワレ大根!!!」
「百叩きだ、コラァッ!!!」
アキヒとトウカは得物を手にして、シリウスに襲いかかる。ソウシが絡むと即座に喧嘩を始める二人だが、共通の敵――シリウスが出来たことで、初めての共闘を実現している。
その様子を見ていたコガネは、「ソウシのことで協力し合えるんだったら、普段から協力し合ってくれないかな」、などと他人事のように思っていた。
ハゼは完全に、他人の振りをしている。
「誰が嫁だあああああっ!!!てめぇの脳味噌腐ってんだろ、糸引いちゃってんだろっ!!?」
俺のもの扱いの次は、嫁扱いときた。怒髪天を衝いたソウシは、遂に銃を取り出した。
「あー、もう、静かにしろよ」
「ほらほら、そんなに暴れると余計に疲れて、イラクリオンまで歩いていけなくなってしまうわよ?ね、落ち着きましょう?」
――怒り狂った三人が力を合わせて、シリウスを倒そうとしては不味い。
見兼ねたコガネとトキワが仲裁役を買って出て、頭に血が上っている三人を落ち着かせようと努力する。