Post nubila Phoebus

アルゴスの目 ―諸事情により愛の逃避行(?)開始―

「……我が姉、カサンドラ・トウカが成り行きで皆さんを巻き込み、家出の片棒を担がせようした挙句、このような大変な失礼を致しましたことを、深く、深くお詫び申し上げます……」
ヘレノス・トウマ・ゲネトリクス少年は深々と頭を下げ、姉の不始末を詫びた。
「いや、その、気にしないでください……」
「え、ええ、お互い様……?ですよ……」
頭を下げる必要はないと、コガネとトキワが苦笑しながら告げる。
――哀れだ。
二人の目線の先には、すっかり気力を失い、真っ白な灰と化したトウカがいた。

「えっと、トウカ……じゃない、カサンドラさん?から、貴方が色々な事に詳しいと伺ったので、此処へ案内して貰ったんですけど……」
何はともあれ、兎に角目的を果たさなければ。
コガネは未だ混乱気味の頭の中を無理矢理切り替え、少年学者に話を切り出す。
「今から話すことを信じるか信じないかは、貴方に任せます」
トウカとこれほどまで関わるとは思っていなかったので、彼女には話さなかった、これまでの出来事を正直に話す。
そうした方が良いのかもしれないと、コガネなりに考えた結果だ。

「デミウルゴス……黎明の時代より生き続ける、不老不死の存在ですか……。僕が知っている範囲ですが、耳にしたことはない……ですね。コガネさんの幼馴染を救う為には、シリウス・アイテルなるデミウルゴスを捜し出さねばならないのですね?」
「この世界の何処かに、それも人間の行きそうにない場所にいるだろう、くらいしか分からなくて……。黎明の時代に関する場所にいるのかもしれないと、俺、いや僕?私?は、思うんですけど……」
不慣れな敬語を駆使している為、時々おかしな言葉遣いになっているコガネの説明を最後までじっと聞いていたトウマは、腕を組んで頭を悩ませる。
「その条件に適っているのかは分からないのですが、一箇所、思い当たるところがあります」
彼は席を立ち、沢山の書類を収めている棚の中を探り始める。
「イーリオンからずっと南に下っていくと、イオニア州に辿り着きます。その州のサモス島と呼ばれる場所には、神代に建てられたと言う、オリンポスの女神ヘラを祀った『ヘラ神殿(ヘライオン)』があるのですが……」
目的のものを見つけた彼は席に戻り、折り畳まれた紙を開き、机の上に広げる。
「これは、そのヘライオンの見取り図の複製です」
見取り図には、黒い線が描かれている部分と、赤い線で描かれている部分があった。彼は先ず、黒い線で描かれている部分を指差した。
「黒い線で描かれている部分は、神代に建てられた当初の見取り図です。赤い線の方は、黎明の時代以降に新たに付け加えられた部分ではないかと言われています。ですが、不思議な事に、学術調査に向かった学者によると、この付け加えられている部分は実際のヘライオンには存在していないのだと発表されています」
「え?」
存在していないというのならば、見取り図に付け加える必要があるのだろうか。矛盾していないかと、コガネは首を傾げた。
「見取り図には、祭壇の付近に地下への入り口があると描かれていますよね。けれど、実際にはそれらしき入り口が何処にも見当たらなかったのです」
おかしいでしょう?
トウマの言葉に、一行は一斉に頷いた。一名を覗いて。
「アシアの学者の中には、魔法に精通している方は居られないのですか?」
傍観者と化していたハゼが、不意に口を開いた。
「どういうことだ?」
突然どうしたというのか。ソウシが胡乱気な声で尋ねる。
「その見取り図に付け加えられている場所は、存在していますよ。魔法に精通している、或いは少しは齧った事のある人間であれば、入り口がある事に気が付いたでしょうね」
「勿体ぶらずに、はっきり言ってくれないかなぁ?」
アキヒが睨みつけると、ハゼは大袈裟に肩を竦める。
「地下への入り口を隠す為に、『呪術(ゴエーテイア)』が掛けられているのですよ」
呪術――耳慣れない言葉の登場に、その場にいる多くの者が頭の上にハテナを浮かべる。
「呪術ですか……どうりで」
謎が解けたと、トウマが感心して頷く。
「何だ、それ?」
ソウシは隣に居るアキヒに尋ねてみるが、彼は知らないと言って、首を左右に振った。
「我が国は先進国と言われていますが、ヘレネスやアルカディアよりも魔法の知識が乏しいのです。というよりも、そちらでの繁栄を捨て、機械文明をとった国家なのです」
それ故にアシアには無神論者が多く、学者や趣味人でなければ、神代の遺跡などには関心を持たない。
「とはいっても、多少は魔法に関する知識はありますよ。そうでなければ、二カ国と対等に渡りあえませんから。僕は文献でちらりとしか見たことがないので、呪術についてはあまり詳しくないのですが……」
間違っていたら申し訳ないと先に詫びてから、トウマは語り始めた。

呪術とは、黎明の時代に発明された魔法体系の一種である。
術者が呪文を詠唱しながら精神を集中させて発動する魔法とは異なり、呪術は魔法陣や媒介を用いて発動させる。魔法は発動した後、爪痕は残すが直ぐに霧散する。呪術は発動させると、停止させるまでその場で効果を現し続けるといったような違いがある。
だが、呪術と似通った効果を発する魔法も存在するし、魔法と似通った効果を発する呪術も存在するので正確に区別することは難しい。
魔法と似ているようで、似ていないと言った方のが良いだろうか。
共通点は、どちらも『魔法使い』などと呼ばれている特殊な人間でなければ扱うことが出来ないという点だ。

「呪術に関する資料や文献は、黎明の時代の終焉と共に殆どが失われてしまったと言われています。アシアでの話ですので、ヘレネスやアルカディアではどうなっていうのかは分からないのですが……」
「ヘレネスでは、呪術に関する文献や書物は禁書扱いになっているので、その存在と扱い方を知っているのは極僅かな人間のみです」
トウマとハゼの話に、アキヒとトキワはついていけるらしく、うんうんと頷いている。
一方、ついていけない側のコガネとソウシは仲良く許容量の少ない脳味噌をオーバーヒートさせていた。
「……壊しちまえば良いじゃねえか」
「あのねぇ、そんなことしたら器物損壊罪か何かで牢屋行きだから」
呪術が邪魔で進めないのであれば、壊してでも進めば良いという問題ではない。物騒なことを口走ったソウシを、アキヒが窘める。
「で、何で呪術が掛けられてるの?」
正面に向き直り、アキヒは疑問を口にした。
「勿論、隠したい、隠さなければならないものがその先にあるからですよ。『アルゴスの目』と呼ばれる、かの時代の遺産が眠っているのです」
知っているからこそ言える、そう言った口調だった。
「……あんた、知ってるのか?」
「そうですね」
「知ってたなら、教えてくれたって良いだろ!?」
黙っていた事に激昂したコガネが席を立ち、飄々としているハゼに詰め寄る。
怒りのあまり掴みかかろうと伸ばした手は、正面を向いたままのハゼにあっさりと捉えられ、行き場を失った。
「訊かれなかったので、言わなかっただけですよ。俺が訊かれたのは、シリウス・アイテルの居場所についてですので」
かの時代にサモス島と呼ばれていた島が現在もその名で、その場に存在しているのか、ヘライオンは残されているのか。確認もしていない不確かな情報を口に出すのは如何なものか。
「失礼、貴方方は宛てもなく行動出来る方々でしたね。これは迂闊でした」
嫌味な微笑を浮かべられたコガネは、ぐうの音も出ない。
「アルゴスの目とは、どういったものなのかしら?」
トキワに尋ねられたハゼは、力を無くしたコガネの手を放り、彼女の方へと顔を向けた。
「呪術の結晶、とでも言いましょうか。それは本来、囚人などを監視する為に作られたものなのですが、応用で目的の人物を捜し出すといった使い方も出来るという優れものです。例え、目標が世界の何処にいようとも、必ず」
「それを使えば、シリウスさんを見つけられるのかしら?」
「まあ、可能でしょうね。扱えるのであれば」
冷静になりかけたコガネ目の前が真っ赤になる。
「それを知ってるなら、あんたはどうしてシリウスを捜そうとはしなかったんだ!?事情を話して、協力して貰うとか出来たかもしれないじゃないか!そうしたら、同調者を殺すなんてことはしなくて良いじゃないか……っ!」
様々な思いが溢れ出てきて、とても整理が追いつかない。
思いのたけをぶつけてやりたいのだが、それ以上は喉が声を紡いではくれず、黙り込んでしまった。
「殺してしまった方が手っ取り早いから、ですが?」
子供にとやかく言われる筋合いはない。
前髪に隠されている目と、彼の纏う空気がそう語っているように見えた。
「言いましたよ、協力する気は毛ほどもないと」
「……っ」
悔しいが何も言い返せない。口ではこの男に勝てないのは、嫌というほど分かっている。ぶつけどころをなくした拳を握り締めることしか、コガネには出来なかった。

「……アルゴスの目ってのがあれば、シリウスが見つけられるかもしれないんだろ?だったら、サモス島に行こうぜ」
歯を食いしばって憤りを抑えているコガネの肩に、ソウシがそっと手を置く。落ち着け、と言われているように思えた。
「……あのっ」
深呼吸をして息を整え、気持ちを落ち着けていると、トウマがおずおずと口を開いた。
「僕も共に行かせては頂けないでしょうか?道案内程度ですが、少しはお役に立てると思います」
コガネとハゼの諍いは見なかったかのように、彼は振舞った。気を遣ってくれているようだ。
「……良いんですか?」
アシアに詳しくない一行からすると、彼の申し出は非常に有難い。しかし、これ以上世話になっても良いのだろうかと彼らは逡巡する。
「ヘライオンに眠る古代文明の遺産をこの目で確認したい。……というのが、本音でしょう?」
ハゼの言葉に、トウマはぎくりと身を強張らせた。どうやら、半分図星だったようだ。
「こらっ。人様の親切を邪推するんじゃありませんっ」
バッチーン。
トキワは戒めの為に軽くデコピンを食らわせた心算なのだが、その威力は常人における本気の域に達しているものだった。
彼女の力を甘く見ていたハゼは、負傷した額を抑えて黙り込んでしまった。
――ざまあみろ。
コガネは、心の中でほくそ笑んだ。

「宜しく、御願いします」
トウマの下まで歩み寄り、コガネはすっと右手を差し出した。
「此方の方こそ、お聞き届けくださって、有難う御座います!」
二人は力強く、握手を交わした。
「今日のところは、当家にお泊まりください。直ぐに部屋を用意させますので、それまではこの場でゆっくりとお寛ぎください」
サモス島へは、イオニア州の港町ミレトスから出ている船で向かうのだそうだ。
ミレトスへは明日の朝、イーリオン中央駅で長距離列車に乗って向かうことが決定した。トウマの申し出に甘え、一行はゲネトリクス邸で一泊することとなる。

***************

一人一部屋ずつ与えられたのだが、コガネに宛がわれた部屋に、何故か賞金稼ぎの二人が押しかけてきた。
何でも、あまりに広い部屋に一人でいるのがいたたまれなくなったらしい。

「あのトウマ……いや、ヘレノスさんか。本当にトウカ、いや、カサンドラ?の双子の弟なのかな?性格がまるで違うんだけど……」
「それよりも、俺はあの放心っぷりの方が怖かった……」
明後日の方向を虚ろな目で見つめたまま呆けているトウカの姿が、瞼の裏に焼きついていた。少年組は何となく、彼女に対して憐憫の情を抱く。
「アイツ、俺が女だってのに全く気が付いてなかったのな」
悪いことをしてしまったかと、ソウシが罰の悪そうな顔をする。ソウシはソウシで、トウカにそういった目で見られている事に一切気が付いていなかったのだが。
「一発で気が付いたら、奇跡だよ。まあ、その奇跡を起こした例外がいるっちゃいるんだけどね、一人。ん~~~、見た目からして男なんだけど、せめて言葉遣いを直せばまだ……」
「いや、この見た目で女言葉は不味いだろ。確実に怪しい目で見られるぞ……」
二人は同時に、女言葉を駆使するソウシを思い浮かべた。
――これは頂けない。
言いようのない気色の悪さを覚え、顔を真っ青にして俯いてしまったのは言うまでもない。

***************

「行って参ります、ヘクトル兄さん」
「うむ。父上と母上には私から伝えておこう。道中、充分に気を付けるのだぞ」
「はい」
年の離れた兄に頭を撫で回され、トウマは照れ臭そうに微笑む。
其処には、トウカの姿はなかった。衝撃が強すぎたのか、部屋に閉じこもってしまって出てこないのだそうだ。
「皆さんも、お気をつけて」
「お世話になりました、ヘクトルさん」
ヘクトルに別れを告げ、一行は彼が手配してくれた馬車に乗って、イーリオン中央駅へと向かっていった。

「この寝台特急っていうのに乗っていけば良いんだよな、トウマ?」
コガネは敬語を使うのを止め、すっかり普段通りの口調に戻っている。
ゲネトリクス邸からイーリオン中央駅までの道のりの間に、少年組とトウマは年齢が近いのもあってか、直ぐに打ち解けた。そして、コガネが疑問に感じていたことを話すと、彼は「ヘレノス」ではなく「トウマ」と呼んで欲しいと言ったので、そう呼ぶ事になった。
「はい、そうです。僕は切符を買ってきますね、皆さんは此処で待っていてください」
「あ、僕も行くよ」
切符の買い方を覚えたいと、アキヒはトウマの後に付いていく。暫くして、二人が戻ってきたので、一行はプラットホームまで移動した。
「……ん?」
目的の寝台特急に乗り込むと、見覚えのある姿が目に入ってきた。
「あら、遅かったわね?」
「ト、トウカちゃんっ!?」
声の主を認めた一行は、トキワとハゼの二人を除いて慌てふためく。
「な、何で此処に!?」
「何でって、ソウシ様に付いていく為だけど?」
昨日までは廃人のようだったではないか。復活の早さにと諦めの悪さに驚き、上擦った声でコガネが問うと、当の本人はあっけらかんと答えた。
どうやら、放心状態の振りをして、しっかりとコガネたちの話を聞いていたらしい。
「あのさ、ソウシは女だって分かったでしょ?諦めた方が……」
「五月蠅いわね、ガキんちょ!そんなことはどうだっていいわよ!付いていくったら、付いていくんだから!」
「どうでもよくないよっ!?」
「寧ろ大問題だろっ!?」
開き直った恋する乙女の勢いに、少年組は圧倒されてしまう。

「トウカ、いえ、カサンドラさん。私たちは貴女を連れていくわけにはいかないわ。ヘクトルさんや貴女のお父様は勿論、貴女にも立場や責任があるのよ?だから、家に帰りなさい」
「貴女がそのような行動を取ることで、周囲の人間が迷惑を被ります。はっきり言いますが、お嬢様のお守りをする義務はないのですよ、我々にはね。お嬢様はお嬢様らしく、屋敷で大人しくしていらっしゃったらどうですか」
トキワは彼女のためを思って忠告をし、ハゼは面倒を避ける為に苦言を呈した。
「五月蠅ーい!!!付いていくったら、何が何でも付いていくのよ!!!」
「へ?」
トウカは聞く耳を持たず、逆に臍を曲げる。ソウシにへばりついて、離れようとしない。
コガネ、アキヒ、トウマの三人が協力してソウシからトウカを引き剥がそうとするが、彼女がしぶとく抵抗するのでなかなか引き剥がせない。
「げっ」
遂には発射を知らせるベルが鳴り、列車が動き出してしまった。

「カサンドラあああああ!!!」
鼓膜が破れてしまいそうなほどの怒号が、駅の構内に響き渡る。部下の警備兵を引き連れたヘクトルが現れ、トウカを連れ戻そうと必死に列車を追いかけてくる。
「ちっ、気が付きやがったか。思ったよりも早かったわね!」
ソウシから離れ、列車の最後尾のスペースに移動したトウカは、狩猟用の弓矢を構え、ヘクトルたちの足下目掛けて次々と矢を放っていく。
「ええ―――っ!!!?」
「ちょっ、何してんのさ!?」
「トウカちゃん、あれはヘクトル兄さんですよ!?猪や鹿ではありません!」
気でも狂ったのか。三人は大慌てでトウカを拘束し、止めさせる。
「何処の世界に自分の兄貴目掛けて矢を射る奴がいるんだよ!?」
青い顔をしたコガネが叫んで訴えると、後ろで傍観していたハゼが「其処にいますよ」と小声で呟いたのが聞こえた。
「私はソウシ様と愛の逃避行を繰り広げるのよ!邪魔すると頭をぶち抜くわよ、ガキどもぉ!!!」
「ぎゃあっ!!!」
「もう邪魔しないから、矢を向けないでよ!!!」
「ていうか、トウマはすんなり承諾されて、私が駄目だってのが一番気に入らないのよ!!!」
「御免なさい、トウカちゃん!!!」
三人は両手を挙げ、降参の意を示す。彼女の脅迫に屈した。
一目惚れから生じた勘違いの恋に燃える暴走乙女は恐ろしい。鬼気迫るものすらあるように感じられ、三人は彼女の恐ろしさを改めて認識した。

「凄ぇ女だな、アイツ」
トウカの暴走振りに、ソウシは呆気に取られている。
「……これで良いのかしら?」
「さあ?俺と貴女は一応止めたので、良いのではないでしょうか?全くもって、彼女は聞く耳を持ちませんでしたが。そうですね、鬱陶しくなったらミレトスの役所にでも突き出してしまいましょう。仮にも大統領令嬢ですから、直ぐに保護して頂けますよ」
他人事のように、ハゼは肩を竦める。
「それにしても、貴方方は妙な事に巻き込まれるのが上手ですねぇ。いっそ感心してしまいますよ」
さして感心しているようには聞こえない口調で、ハゼは淡々と告げた。
「……」
そもそも、あの時、ハゼがコガネに立ち止まれと言わなければ、トウカと出会うことも、このようなことに発展することもなかったのではないだろうか。
しかし、その事があったからこそ、目的が見つかったのだが。
(……兎に角、無事にサモス島に辿り着けると良いのだけれど)
彼女は、心の底からそう願った。

***************

「くそ……っ、逃がしたか……!」
我が妹ながら、とんでもない奴だ。
額に青筋を浮かべ、怒りを顕わにしたヘクトルは列車が走っていった方向を睨みつける。そして、ふと、足下に突き刺さっている幾つもの矢の一つに目を向けた。
鏃の辺りに、紙が巻きつけられている。
その矢を手に取り、紙を取り外して広げてみる。
「……っ!」
「如何なされましたか、大将閣下?」
部下の一人がヘクトルの異変を察し、心配そうに声をかける。
「カサンドラの追跡は中止だ。至急、屋敷に戻る」
紙を握り締め、踵を返したヘクトルの口角は楽しげに吊り上っていた。