蒼い春

ウチの真面な家族に

 眠りに落ちたのは、何時だろう。深夜まで起きていた記憶があるので、朝方かもしれない。手元のスマートフォンから目覚ましのアラーム音が聞こえて、星凛は目を覚ます。短い時間しか眠っていないので、眠たくて仕方がない。このまま布団の中で籠城していた気分だが、それは出来ない。今日は平日で、学校に通わなければならないのだ。
 のそのそと起き上がって、そろりと自室を出て、洗面所へと向かう。顔を洗って、歯を磨いて。洗面台の鏡に写った顔には、寝不足による隈が出来ていた。

(パパとママの顔見たくない……)

 キッチンの方から物音がする。美沙子が其処にいるのが分かり、気が重くなる。然し空腹が限界にきているので、星凛は覚悟を決めて足を進めた。案の定、キッチンには美沙子がいて、直ぐに星凛に気が付いた。

「おはよう、星凛。朝食出来てるわよ。昨日は夕食を食べなかったでしょう?しっかり食べていきなさい、成長期なんだから」

 昨夜の狼狽ぶりは何処へやら。美沙子は眩しい笑顔を見せつけてくる。食卓の上に作りたての食事が用意されているのが見えたが、もやもやした気持ちを抱えている星凛は一口から動こうとしない。

「……パパは?」
「パパはもう仕事に行ったわ」

 清の顔までは見ないで済んだ。安堵の息を吐いた星凛の腹の虫が盛大に鳴く。それを耳にした美沙子が食卓に着くようにと促してきたが、星凛は未だその場から動こうとしない。美沙子に近づきたくない、という意思表示なのだろう。娘が自分を拒絶している、と感じ取ったらしい美沙子の表情が曇るが、彼女はもう一度笑顔を貼り付けた。

「そうそう、パパから伝言よ。昨日、前の奥さんの娘に何を言われたのかは知らないけど、その人の言っていたことは全部嘘だから、信じないようにって。それにしても酷いわよね、その人も塾の先生も。何も知らない、罪もない星凛に言いたい放題で。大人げないわね、社会人としての自覚がないんじゃないかしら?」

 美沙子も清も、自分たちが仕出かしたことは棚に上げて、全ての責任を他人に押し付けて、彼らを悪く言って誤魔化そうとしている。美沙子の言葉にカッとなった星凛は踵を返した。

「御飯いらない。コンビニで買って食べる」
「あ、星凛……っ!」

 自分たちの行動を正当化する為なら、何をしても良いと考えている両親が怖くなって、星凛は急いで靴を履いて、家から出ていく。

(ねえ、パパ。それってウチを守る為の嘘?それとも、自分を守る為の嘘?……あの人たちも言葉も信じられないけど、パパとママも信じられない……)

 思い込みによる正義感を貫こうとしたことで、知りたくもなかったことを知ってしまった星凛の心に両親への強い不信感が芽生える。あの時、勇気を出さなければ何も知らないでいられたのにと後悔するばかりだ。
 今日も朝から雨だが、星凛は傘を忘れた。幸い小雨なのでずぶ濡れになる心配はないが、パンと一緒にビニール傘も買うことに決めて、通学路の途中にあるコンビニを目指した。

WEB拍手