貴方はわんこ。貴女はにゃんこ。

※翻訳などなどを駆使して作成した英文、そして和訳ですが、正解かどうかはちょっと分かりません。

私の知らない貴方が見えて

出かけた先で突然現れた茶髪のお兄さんと武藤さんが、私の頭上で英語で口論をしていらっしゃいます。二人とも背が高いので、こうなるのは必然かと。
――これは止めた方が良いのでしょうか?
と、悩んでおりますと、視界に背の高いベリーショートヘアのお姉さんが入ってきました。

「あらあらぁ、道のど真ん中で喧嘩はダメよぉ?」

そう言って、お姉さんはお兄さんの脇腹に強烈な中段蹴りをいれました――それも笑顔で。お兄さんは脇腹を押さえて、その場に蹲って悶絶しています。物凄い音がしましたが……骨は折れていませんでしょうか?

「いきなり走っていったと思ったら、人様の迷惑になるようなことをしてぇ。何時まで経っても常識が覚えられないのねぇ?死んで生まれ変わった方が良いのかしらねぇ?一回逝っとくぅ?」

ゴシックパンク系――馨に教えて頂きました――の服を着たスタイルの良いお姉さんは、おっとりとした口調で恐ろしい言葉を紡いでいます。

「コメちゃん、ダメ犬のリードをがっちりと持っていてくれないかなぁ?」
「いやよぉ、面倒なんだもの、このダメ犬」

武藤さんに”コメちゃん”と呼ばれた色っぽいお姉さんは、おどけて肩を竦めていました。この様子から察するに、この三人はお知り合いのようですね。
それにしても、これはどういう状況に陥っているのでしょうか。うんうんと唸りながら頭の中を整理しておりますと、”コメちゃん”が私に気がつかれました。

「キューちゃん、この子が”さっちゃん”?」

――キューちゃん、とは何方のことですか?さっちゃん、は若しかして私のことでしょうか?

「そ。……朝雪さん、紹介しますね。彼女は僕の友人で、(ほし)(あきら)さんといいます」

切れ長の目がすぅっと細められて、厚みのある口紅が塗られた唇がゆっくりと弧を描きました。その動作がとても婀娜っぽくて、私はどきっとしてしまいました。女性に対してどきどきしてしまうのは初めてのことでして、内心で動揺しています。

「こんにちは、初めましてね?私のことはコメちゃんって呼んでねぇ?」
「此方の方こそ、初めまして。巽朝雪と申します。今後ともどうぞ宜しくお願い致します、星さん」
「んーん、コメちゃん♥」
「コ、コメちゃん?」

初対面で年上の方を馴れ馴れしくそのように呼んでも良いのかと迷いましたが、恐る恐る呼んでみますと、星さん――コメちゃんは笑みを深くされました。

「因みに其処で蹲って悶絶しているのは、ただの顔見知りの犬房(いぬふさ)(りょう)です。これは覚えなくても結構ですよ。朝雪さんの人生に必要ないので」
「……はあ」

武藤さんがこんなに適当に、それも投げやりに人を紹介するのを見るのも初めてで。こんな一面があるとは露にも思わず。

「……顔見知りだって?」

蹲っていた犬房さんが、よろよろとしながら立ち上がります。コメちゃんに蹴られた脇腹がまだ痛むのでしょうね……とても綺麗な中段蹴りでしたから。

「照れてんのか、お前?俺とお前は運命共同体、つまりはマブダチ、いや、ダーリンとハニーの間柄だろ!?」
What are you waffling about?(何寝言言ってんの?) It's all over with poor mongrel.(かわいそうにダメ犬はもうダメだ。) I'm sorry to hear that.(気の毒に。)
「キューちゃん、そんなこと言っちゃダメよぉ。ダメ犬のお(つむ)が残念なのは周知の事実でしょぉ?」
「本当に容赦ないな、お前ら!?」

こうして、突然現れた武藤さんの御友人であるコメちゃんと犬房さんのペースにすっかり巻き込まれてしまいまして。私は自分の中に生まれたもやもやのことをすっかり忘れてしまったのでした。

――そして気がつけば、コメちゃんの提案で焼肉パーティをしていたのです。

「さっちゃん、お口開けてぇ?あ~ん♥」
「あ、あ~ん?」

私は今、ビールを飲んで上機嫌になったコメちゃんにお肉を食べさせて頂いております。あの、身体がとても密着しているので、腕にコメちゃんの大きな胸が当たるのですが……!その大きさが、う、うらやま……げほんっ。

「さっちゃん、良いなぁー。コメちゃ~ん、俺も~♥」

対面で寂しそうにしていらっしゃる犬房さんが、猫撫で声でコメちゃんにお願いしていらっしゃいます。
家まで車で送ってくださった犬房さんは、運転手ということもあって、お酒ではなく緑茶を飲んでいます。つまり、素面でそんなことを仰っているのです。凄いです。

「私、さっちゃんを愛でるのに忙しいのぉ。キューちゃん、やってあげてぇ?」
「御免、無理。絶対に嫌だ」
「全力で拒否すんな、俺だってお前に、あ~ん♥されるの嫌だっつーの。何の罰ゲームだ!」

先程からこの調子です。皆さんは仲が宜しいのですね――恐らく。

「良いわねぇ、キューちゃんは。こぉんなに可愛い子と一つ屋根の下で暮らせてぇ~。羨ましいわぁ」
「でしょう?」

私に抱きつくコメちゃんに、武藤さんはさらりとそんなことを仰いました。意外です。
それにしてもコメちゃん、近いです。お胸が、お胸が!ふんわりと香る香水やビールの匂いにどきどきしてしまいます!助けて!お父さん!巨乳の美人が怖いです!
え、えーと、気を紛らわせなければ……!

「あ、あの……コメちゃん?」
「うん?なぁに、さっちゃん?」
「最初にお会いしました時、どうして私が”巽朝雪”だとお分かりになったのですか?」

気になっていたことを尋ねてみますと、彼女はきょとんとした後に肩を揺らして笑い始めました。

「だってぇ、キューちゃんの話の六割は”朝雪お嬢様”のことなんだものぉ……。自然と分かっちゃうわよぉ、うふふっ」
「……コメちゃん」
「?」

武藤さんがじろりとコメちゃんを睨みます。あら?顔が仄かに赤いような……?気のせいでしょうか?
疑問はいまいち解決したようには思えませんが、二つ目の疑問をコメちゃんに投げかけてみます。

「それと……”キューちゃん”とは、武藤さんのことですか?」
「ええ、そうよぉ♥クィンランのイニシャルがQだから、キューちゃんって呼んでいるの、私はね」

ははあ、成程。私はてっきり、九官鳥のキューちゃんかと。九官鳥と武藤さんに共通点が全く見つからないなぁと思っていたのです。
そして、質問は三つ目に突入です。

「コメちゃんは、どうして”コメちゃん”なのですか?」
「えっとねぇ」
「はい、コメちゃん」

何かを察したのか、武藤さんが手帳と使い古された万年筆をコメちゃんに手渡しました。

「私の名前の”星彗”ってねぇ、漢字で書くとこうなの」

おっとりとしたコメちゃんの言葉に、意識が一気に現実に引き戻されます。

「ひっくり返すと、”彗星”になるでしょう?」
「本当です……」
「それでね、彗星は英語でcometと言うでしょう?でね、昔はコメット、コメットって呼ばれていたんだけど、次第に省略されてコメになってね?だからね、コメちゃんなのよ?この渾名、本名より気に入っているの」

ちょっと間抜けな感じがしなくもないけれど、可愛いでしょう?と、コメちゃんが笑みを溢します。その通りだなと思いましたので、頷いて応えました。

「ああん、もうっ!さっちゃん、可愛いわぁ♥んふふっ、食べちゃいたい……♥」

両手で私の頬を包んで、コメちゃんはにっこりと笑って顔を近づけてきます。
私は食べられてしまうのですか?女性らしい丸みがありませんので、きっと筋張っているでしょうから美味しくないと思われるのですが……!?

「コメちゃん、朝雪さんを美味しく食べちゃうのはダメ。絶対」
「あら」
「ふにゃっ」

腰に手をやって抱き寄せられた私は、武藤さんの胸板に後頭部を軽くぶつけます。その折に、ふんわりとお酒の香りが鼻腔をくすぐります。そういえば、貴方も珍しくお酒を召しておいででしたね。確か、ウィスキーでしたか。
はてさて。コメちゃんが名残惜しそうに、人差し指で私の頬をぷにぷにとしてくるのが謎です。

「味見は?」
「それもダメ」
「うーん。……じゃあ、愛でるのはぁ?」
「それは構わないよ」
「???」
「おーい、お前ら。さっちゃんが意味分かってないのを理解した上で言ってるだろ?」

武藤さんとコメちゃんの会話に深い意味があるのですか、犬房さん?
私にはサッパリ分からないのですが……。
それにしましても。お友達の前だと随分とくだけた口調で話されるのですね。私の前ですと敬語ですのに。
コメちゃんは”コメちゃん”と呼ばれますのに、私は”朝雪さん”ですよね。――むぅ。

「……あらぁ、ビールがもう空だわぁ……」
「待っていて、取ってくるから」

空になったビールの間を受け取って、武藤さんはお酒を召しているにもかかわらず、しっかりとした足取りで冷蔵庫へと向かわれます。<

「ありがと、キューちゃん♥大好きよぉ♥」
「僕もだよ、コメちゃん」

――んん?『大好き』?『僕もだよ』?
えぇと、これは……お友達としてなのでしょうか、それとも――?――むむぅ。

「クィン~、俺にもお茶のおかわり頂戴~」
「アパートを出て直ぐに右に曲がって30mくらい歩くと、右手側に自動販売機があるから」
「自分で買いに行けってか!?コメちゃんには優しいくせに、俺には優しくないよなお前!酷い!」

犬房さんの訴えには、武藤さんは聞こえない振りをされています。
『コメちゃんには優しい』ですか、ははぁ……。――むむむぅ。

「犬房さん、お茶が御入り用なのですよね?宜しければ、私が買いに行って参ります……」

何故だかこれ以上この場にいたくなくて、私はそう申し出ていました。

「あ、大丈夫、大丈夫!クィンってばツンデレだからさ、ああ言うんだよ。さっちゃんは優しいね、良い子だね。この二人に爪の垢を煎じて飲ませたいくらい。それから、俺のことは”犬房さん”じゃなくて”燎くん”って呼んでね?」

「……はい、燎くん」

此処から立ち去れる体の良い理由がなくなってしまいました。燎くん、少しばかり恨んでも良いですか?

Hey, mongrel(おい、ダメ犬).Who are you calling sweet-n-sour?(誰がツンデレだって?) At the very least I certainly don't remember being sweet...!(少なくともデレた覚えはないんだが)And,don't make friends with my lady. (あと、お嬢様と仲良くするな)Germs will get on her.(黴菌がつくだろうが)
You bastard(この野郎)...! Don't treat me like germs!(俺を黴菌扱いすんな!) It's really fine, you're a wolf in sheepe's clothing(上等じゃねえか、この猫かぶり)...!」

武藤さんと燎くんはよく口喧嘩――だと思われる――をなさいますね、何故か英語ですが。お二人とも流暢な英語で話されますので、全くもって内容は分かりません、はい。

「コメちゃん、ビール。燎、お茶」

燎くんは呼び捨てなんですね、武藤さん。何だかんだ言ってお茶を持ってきているあたり、矢張り仲が宜しいのですね。

「クィン大好きぃ♥」
How disgusting.(おお気色悪い)
You're Jekyll and Hyde(二重人格)...」

ああ、また喧嘩を始めそうな空気です……。と、思いきや。

「……あ、忘れてた。クィン、ちょっとこっち来い。大事な話がある」
「ん」

真面目な表情をした燎くんと共に武藤さんは玄関の方へと向かわれます。私やコメちゃんに聞かれると宜しくない内容なのでしょうか。

「んふふ~、さっちゃぁ~ん♥」
「うにゃっ」

玄関とリビングとを仕切る扉の方を気にしていると、コメちゃんにすっぽりと抱き込まれていました。ふおおお、背中に柔らかくて弾力のある二つのものが当たっております……!

「燎にキューちゃんとられて寂しい?」
「え?」

耳元で囁かれた言葉は、予想外のものでした。

「ん~?私にはそう見えたんだけどぉ……違ったぁ?じゃあ、御免なさいね?でも、ちょこちょこヤキモチやいてるわよね?」

ぎくっと、反射的に身を固くしてしまいました。密着していますから、それは当然コメちゃんに気がつかれているでしょう。

「うふふ、正直ね、さっちゃんはぁ♥本当、キューちゃんの話のとおりだわねぇ」
「……え?」
「あの二人、きっと込み合った話をしているだろうから……さっちゃんはお姉さんとお話しましょぉ?」

コメちゃんはくつくつと笑いながら、缶の中に残っているビールを一気にあおります。

「そうねぇ、さっちゃんが興味を持ちそうなのはぁ……やっぱりキューちゃんのことよねぇ♥」
「え!?いえ、あの、その……」

戸惑う私を余所に、コメちゃんはどんどん話を進めていかれます。若しかして、完全に酔っ払っていらっしゃいますか?
お酒が入って舌が滑らかになったコメちゃんは、色んなことを話してくださいました。

――其処には、私の知らない武藤さんがいました。